☆☆☆☆☆(6点)全12話
ゲームじみた異世界で主人公が奮闘する異世界ファンタジーアニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | ☆☆☆☆☆(6点) |
完走難易度 | 超難しい |
原作は:山川直輝先生/奈央晃徳先生。
監督は羽原久美子さん。
制作はMAHO FILM。
転送
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
主人公とヒロイン2人が異世界に転送され、ゲームマスターとやらのクエストをこなしていくというファンタジーアニメ。
いわゆる「なろう系アニメ」というやつだ。転送ではあるが異世界転生アニメのくくりに入れてもいいだろう。
主人公とヒロインの2人が突然異世界に転送され、その異世界でゲームマスターとやらのクエストをこなしつつ、レベルを上げていく。
この作品が他のなろう系と差別化できるのは、まず現実世界との行き来が可能であるということ。
クエストをクリアするごとに現実世界への帰還が可能になっている。ただ現実世界でもゲームマスターによるクエストがあり、ゲームマスターの指示には従うことが必須のようだ。
後はスタート地点が無力であること。最強ではない。農民、剣士、魔法使い。3人に与えられた役職はあるものの、それぞれゴブリンも倒せないほどのビギナーぶりである。
初心者同然の状態からクエストをこなしていき強くなる。成長という部分にスポットを当てていく作品だと期待できる。
ただ1話からいろいろとツッコみたい作品だ。
まずは明らかに低予算であること。絵のタッチだったり肌の質感だったりボンドで固めたような髪だったり。決定的なのは途中で出てくる「いらすとや」の画像だ。
アニメでいらすとやを見たのは銀魂くらいのものだが、それを1話からギャグでもなんでもないところで入れ込んでくるあたり、かなりの低予算であることがうかがえる。
ところどころCGを使っているし、バトルの迫力もない。キャストにも厳しい台所事情がうかがえる。
ストーリーにおいても確かに量産型とは一線を画すようだが、引き込まれるような面白さはない。
主人公はいわゆるダークヒーロー的なポジションになっている。退屈な現実世界に嫌気が差していた主人公はゲーム三昧の日々。
ゲームへの転送は主人公にとっては願ったりかなったり。足を引っ張るヒロインを置き去りにして自分よがりにレベル上げを行う。
だが彼が自己中であるという側面しかない。孤独だった主人公がゲームでも孤独に戦う。そこには何の面白さもない。
また中途半端なギャグも悪目立ちしている。主人公の職はルーレットによって「農民」と決められる。「テレビで見るやつだ」という主人公のセリフも相まって寒いギャグにしか映らない。
ダークヒーロー的な主人公像を作っていきたいなら、明らかにギャグ要素は対極にあるものだ。
さらにダークヒーローは「内なる優しさ」があって初めて成立する。その「優しさ」がこの主人公には全く見えない。故に面白くないと感じる。
しかも根本的なゲームのルールとして「蘇生」が可能になっている。死んでもいいゲームなんてぬるすぎる。
かの有名な剣士のセリフだが「現実世界に帰還できる」という設定といい、余計なギャグといい、緊張感が生まれにくい構造になってしまっているのも気になる。
あっちこっち
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
ストーリーがあっちこっちしていて全く定まる様子がない。
「みんな死んだら現実でも死ぬ」という設定の元、生き残りをかけて主人公がボスと戦うシリアスから一転、途中でゲームマスターが介入してきて突然「ジョブチェンジだ」などと言い出して、ルーレットで農民から料理人に変わる。
バトルの最中で間抜けにも、またルーレットが始まるという異常な光景。シリアスの流れをぶった切るギャグは面白くもなんともない。
3話で登場する新メンバーにしても、主人公がゲームマスターから「ナンパせよ」という謎のミッションが与えられ、その女の子がいじめにあっている現場に割って入るも、いじめから助けた主人公がなぜか白い目で見られ、後から女の子の事情を聞くと、「自分にも非があるから」みたいなことを言い出し、挙句の果てには乙女ゲームのキャラらしくすればモテるよなどと、意味不明なアドバイスを残して消える。
そして今度はその女の子が異世界に転送され、また例のごとくルーレットが始まり、クエストが与えられ淡々とこなす。
その中で、謎のログやキャラクターの過去が明らかになる回想が入り、不必要で無駄な情報ばかりが積み重なって、さらにテンポが悪くなるという悪循環しか生んでいない。
ヒロインの2人が主人公に恋心を抱いている疑惑を持たせる描写もあり、主人公も「カッコいいところを見せれば彼女ができるかも..」などとのんきなことを言っているが、全くそれらしいシーンはない。
何を目的としているのか分からない。ゲームをクリアすることなのか。メンバー同士の絆を深めることなのか。最強の冒険者になることなのか。主人公がダークヒーロー的なことをしたいのか。
目的、つまりゴールが定まっていないが故の迷走にも見える。他のなろう系アニメにない「それっぽいこと」をしようとしてダダ滑りしている感じだ。
このアニメには正直何もない。差別化を図りたいが明確なプランはなく、それらしいことをして脚色しようとはするが全く面白くない。実に悲惨なアニメだ。
主人公
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
主人公がブレブレなのも一因だ。
主人公が何になろうとしているのか。主人公をどうしたいのか。全くビジョンが伝わらない。
序盤で主人公が足手まといなヒロインを置いて、1人キザなセリフを残してレベル上げに出る。
なるほど一匹狼で行動する主人公が強くなり、いずれピンチで仲間を助けるのか、とありきたりだが予想がつく。
しかし主人公はありきたりを嫌ってか、レベル上げには出るものの、レベルが全く上がらないままボス戦に挑んでいる。
カッコいいセリフを残しておいて、直前に一方的に別れたヒロインを助けるためにボスと戦う。もちろん主人公は弱いままだ。
仲間を助けるという優しさを主人公の行動から感じることはできるものの、そこにダークヒーロー的なカッコよさは皆無だ。
一言もダークヒーローで売っていくなどと言っていないので、別にどんな主人公でも構わない。
だが4話で再び主人公の「闇」が顔をのぞかせる。直前の回想でヒロインの弱みを知った主人公だが、直後のシーンで盗賊に捕まったヒロインを切り捨てて先に進もうと仲間に訴える。
最終的に誰かがクエストにクリアすればいいので、仲間を助けるために危険を冒したくはない、と非情な判断を下す主人公。
それは一般的なダークヒーローの思考に近いものがあるが、決定的に違うのは「優しさ」がないということ。主人公は本気でヒロインを切り捨てる気でいる。クエストクリアを最優先にするために。
ダークヒーローならまだ許せる場面でも、この作品の主人公に対しては「不信感」しか湧かない。弱みを見せてくれたヒロインに対してその扱いはねーだろ、と。
しかも前のシーンで主人公は、ヒロイン2人が彼女になるかもしれないというウハウハな気分でいた。
異世界でカッコいいところを見せて彼女を作る、と邪な考えで息巻いていた主人公が、あっさりと自分を好きかもしれないヒロインを平気で切る判断をするだろうか。
あまつさえ「命の価値ランキング」などという意味不明なランキングを披露し、見捨てるヒロインが最上位にいることも明らかにする。
最上位ならなぜ助けない。クエストをクリアすることで助けられるかもしれないが、仲間が1人でも多い方がクリアしやすくなる、という選択肢をなぜ持てないのか。
中盤にヒロインが仲間を守るために囮になろうとしたときも、主人公は「お前そのセリフかっこよすぎだろw」と笑いながら小ばかにする始末だ。もはやただのクズに成り果てている。
主人公がブレブレだからストーリーが存在しない。観ているだけでストレスが溜まってくる作品だ。
クエスト
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
このアニメでは「クエストをクリアする」というところが一応のゴール地点になっている。
ゲームマスターによってクエストが発注され、それらを仲間と協力してクリアすることで現実世界に帰還することができる。
しかし発展性がない。現実世界に帰ることで何が生まれるのか、現実世界に帰ることの意味が特にないので、そもそもクエストを一生懸命こなしている絵に納得ができない。
そのクエスト自体の尺もやたらに長い。「本当にこのアニメはクエストがやりたいの?」と思ってしまうほど、1つのクエストにとんでもない時間をかけるから、現実世界と行き来できるという設定をつい忘れてしまう。
現実世界との行き来によって何かが生まれてしかるべきで、その「何か」を得るという目的があれば、異世界と現実世界の往来に意味が生まれ、クエストを何が何でもクリアするという熱も生まれる。
そこにゲームマスターの野望や主人公たちの目的なども絡んでくれば、緊張感も生まれるかもしれない。
だが重要な部分があやふやになっているので、クエストがただのクエストの域を出ない。
クエストを依頼の通りにこなすだけ。そのクエストの本当の意味について考えたり、ゲームマスターの真意を読んだり、クエストの途中で端っこの仲間が死んだり、強大な敵に立ち向かったりするシーンも実に味気ない。
そんな味気ないクエストにとんでもない尺が取られている。荷物を運ぶための用心棒をするだけなのに、モンスターにエンカウントしたり、宗教問題に端を発した国同士の争いに巻き込まれたり、迷宮に閉じ込められたり、迷宮のボス的なモンスターと戦ったり、チーム分けしたりと明らかに不必要なシーンばかりに尺を使っている。
もはや現実世界との行き来が何のために存在しているか分からない。せっかくの異世界と現実世界の両輪を上手く活かしきれていない。
総評:だだ滑り
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
いろいろと滑りまくっている作品だ。
まずはストーリー。主人公が何をしたいかが分からないし分かりにくいから、アニメ自体が全く面白くない。
自分勝手に行動するダークヒーローを気取って仲間と別れたかと思いきや、全く強くならないまま、すぐに再会する。
ところどころで仲間を見捨てたり、敵やモンスターを容赦なく殺す「非道さ」を主人公は出しているが、それがただの残虐性にしかなっておらず、翻ってダークヒーローにはなっていない。
仲間のために戦わず、強くなろうともせず、仲間と協力して戦おうともせず、魅力というものを全く感じない。
ゲームマスターに翻弄されるだけされて、ゲームマスターの真意すらも分からない。出されたクエストをただこなすだけのストーリーには、何の独自性も魅力も面白さも感じない。
「一体いつまで同じクエストに時間をかけているんだ」と文句を言いたくなるほどに、荷物を運んでマップを解放するだけのクエストに、12話の半分以上の尺を使っている。
その間、本筋とは関係ないような陰謀に巻き込まれ、中身のない探索やバトルが繰り広げられる。遠回りもいいところだ。
クエストをクリアすることで得られる現実世界への帰還も、全くと言っていい程存在価値がない。頻度がそもそも少ないし、「帰って何すんの?」という感じだ。
そして一番目も当てられないのがEDだ。らき☆すたを意識しているのか実写EDを挟んできたり、キャラクターの小劇場があったり、さらにはEDテーマを歌っている歌手による宣伝まで入っている。(笑)
11話には謎の特殊OPまで入っており、そんなところにお金を使うならもっと使うべきところが他にあるだろうと、誰もが思うはずだ。(笑)
いろいろなところから「何とか工夫しよう」という意気込みは感じられる。だがそれらが全て明後日の方向を向いており、ますますしらけてしまう悪循環を生んでいる。
アニメはまずストーリーで魅せるべきだ。そこから逃げて他のところで差別化を図ったところで、アニメの中身が面白くなければ大して意味はない。
もちろんそれは制作陣も分かっているだろう。しかし、一筋縄ではいかないのがアニメ界の常。
様々な思惑が絡んだうえで、結果的にこのような悲惨な作品が出来上がってしまったのだろう。
情状酌量の余地はあるとはいえ、2020年になってもこのような作品が生まれてしまうことが残念でならない。駄作が当たり前のように作られる事態を何とか止めないといけない。
雑感:100万の命とは?
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会
100万の命の上に主人公は立っているそうだが、果たしてそんな大層なことを主人公はしていただろうか。(笑)
完全に名前負けしている。100万の命を奪ってでも戦い続ける修羅のような男を想像していたが、とんだ筋違いだ。(笑)
実像はなんちゃってダークヒーローで、戦闘力はあまりに平凡で、仲間を平気で見捨てて、異世界で彼女を作りたいという意欲だけは一人前の主人公とは思えない主人公だ。(笑)
タイトル詐欺もここまで来たら逆に気持ちがいい。ここまでいろいろと明後日の方向に突っ走れる作品もない。殴り書きの脚本が素通りしたような乱雑さとやる気が感じられない作画。
しかも12話の最後に2期制作が発表されている。この作品のどこにニーズがあるのか。そのお金がどこから来るのか。考えるだけ無駄だ。(笑)
アニメの界の闇が生んだモンスター作品。違う意味で興味がある人は観てみて欲しい。