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【2016アニメ】「3月のライオン」アニメレビュー

(82点)全22話

主人公・桐山零は、幼い頃に事故で家族を失い、心に深い孤独を負う17歳のプロの将棋棋士。東京の下町に一人で暮らす零は、あかり・ひなた・モモという3姉妹と出会い、少しずつ変わり始めていく――。これは、様々な人間が何かを取り戻していく、優しい物語。そして、戦いの物語。TVアニメ「3月のライオン」公式サイト

17歳の将棋棋士の出会いと戦いの日々を描いた青春アニメ

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (82点)
完走難易度 普通

原作は羽海野チカ先生。

監督は新房昭之さん。

制作はシャフト。

棋士

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

主人公は17歳にしてプロ棋士として生計を立てる高校生。

そんな彼のプロ棋士としての日常、そして17歳の高校生としての日常を描いた青春アニメになっている。

1話でいきなり、名前も分からない女の子に夢の中で罵倒される主人公。学校に行かない。友達もいない。零という名前にピッタリだと。(主人公の名前は零)

夢から覚めた主人公は試合会場に向かい、父親または師匠と思しき好々爺と対局し、見事に勝ちを収めた後に謎の姉妹の家にお呼ばれし、夕飯をご馳走になる。

そして彼はしばらく行っていなかったと思われる学校へ行き、友達と接することがないまま、また試合へと向かっていく。

将棋を題材にしたアニメなのでどのくらい将棋が出てくるかと思いきや、どうやら人間ドラマが主題となっているアニメっぽい雰囲気だ。

罵倒から始まり、一人暮らしの主人公が死んだ魚のような目をして会場に向かい、無気力のまま師匠と対局し、一言も言葉を交わさないままあっさりと勝ちを収める。

対局中の回想で、主人公が対局している相手が師匠であることが分かり、さらに幼い頃決勝戦で対局した相手が、泣きながら師匠と共に帰っていくというシーンがある。

主人公が抱えるトラウマ。悲しみ。無気力の根源。回想では目をキラキラさせて将棋を楽しんでいる主人公だが、現在の主人公の目は死んでいる。

回想シーンから察するとおそらく主人公は、勝つ事への意味を見いだせなくなってしまい、将棋の楽しさを忘れてしまっているのだろう。

負けた相手だけを思いやった師匠の姿。勝ったことに対して誰も評価をしてくれない。それは純粋な子供にとって寂しいことであり、他の弟子だけに肩入れした師匠から裏切られたような気持ちを抱いたことだろう。

そうした主人公の過去が回想によってやんわりと明らかになり、過去も現在も陰鬱としていてシリアスまっしぐらな作品かと思いきや、途中から作品が変わったかのように急に騒がしくなる。(笑)

知り合ったいきさつは1話では語られないものの、とある3姉妹の家に招かれ、一緒にご飯を食べる。いきなりテロップが出るわ、SEも付くわ、愉快なBGMも流れるわで、いろんなことが一気に騒がしくなる。(笑)

くっきりと別作品として分けられているような印象も受ける。主人公が抱える悩みや暗い過去を描くシリアスパート、反対に家族と過ごすような暖かい時間を描いた日常パート。

あまりに違いすぎて面を食らってしまうが、違いすぎるが故にもはやギャグとしても成立してしまっているし、それまでのあまりに暗すぎる主人公の印象から一転して、明るく素直な一面も見えたりして、キャラクターのことまで好きになってしまっている。

主人公を思いやり支えようとする姉妹の優しさ。手書きの絵の温もりも加わって、心がぽかぽかするような優しい世界が出来上がっている。

過去

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

現在から未来への道筋を描きながら、過去のことを紐解いて現在の主人公を形作っていくという構成になっている。

高校生17歳にしてプロ棋士。本当の家族。父親代わりの師匠の存在。3姉妹との出会い。引っ越すきっかけ。過去のトラウマ。

いろんな過去の事象によって現在の主人公が形作られていく。最初はぼんやりしていた主人公像が、回を追うごとにはっきりと目視できるようになる。

一人ぼっちで身寄りのない主人公。そんな主人公が過去と向き合い精算していくことで未来へと目を向け、プロ棋士として改めて将棋に真剣に向き合っていく。

3姉妹が置かれた状況も主人公に近いものがある。まだ幼い女の子がいるにも関わらず両親は他界してしまっており、長女が仕事を掛け持ちして必死に働いて生計を立てている。

むしろ主人公よりも経済状況は悪い。けれど3姉妹の家庭には笑顔が絶えない。幸せのありかはお金にあらず。人生の大切なことまで教えてくれる。

しかし当然、幼い妹2人にとっては当たり前の「親の愛情」がない。次女は悲しみを堪えて気丈に振舞っていはいるが、せき止められていた涙が3話のお盆のシーンで一気に溢れ出す。

それを傍で優しく見守る主人公。主人公はその姿を自分の過去と重ね合わせて、自問自答をする。それが主人公の未来へと繋がっていく。

ストーリーが非常に綺麗だ。綺麗という言葉でしか表現できない自分を殴打したいくらい綺麗だ。

ところどころに入る心理描写や背景描写も秀逸だ。

冬の寒空の下で胸に抱えたお弁当を暖かい動物に例えたり、お線香の匂いから懐かしさを誘ったり、美しい7月の夜空と満月を2人の心に例えたり、「水の匂いや波の音が聞こえる」というモノローグで主人公の心が軽くなる様子を表したり。

下町の温かい光景が目に浮かぶようなセリフや描写が心を安らげ、作品の世界に引きずり込む。

主人公には暗い一面があるにせよ、友達がいないという現状の割に根は素直で明るいし、主人公を嫌うキャラも貶めようとするキャラもいない。

主人公を勝手にライバル視する愉快なおデブちゃん。3姉妹もそうだが、みな形は違えど、一様に主人公を「好き」だという気持ちが伝わってくる。

脇を固めるキャラによって引き出される主人公の素直な一面。年相応の可愛い一面。将棋を指している時のキリっとした表情。

彼が見せるいろんな表情から暗い過去など想像もできない。故に惹かれてしまう。

気づいたら彼のことをもっと知りたいと思っている自分がいる。将棋を指す姿も3姉妹に翻弄される姿も。もっと見ていたいと思える雰囲気を持った作品だ。

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

将棋が持つ「熱」にもこだわって作られている作品だ。

対局中の真剣な表情。目の前の相手に勝ちたいという闘争心。思考。緊張感溢れる雰囲気。コマを指す音だけが響く会場の静けさ。

全てが将棋の世界をありのままに映し出す。将棋のことはほとんど分からないが、あっという間に勝負の世界に引き込まれる。

お互いプロであること。生活とか体裁とか。色々なモノがかかった試合だからこそ生まれる緊張感。

全てが心を熱くしてくれる。顔のパーツに極端に寄る演出もわかりやすく新房監督らしさが全開になっている。(笑)

水泡や太陽などのカットを一瞬挟むような演出も新房監督らしさを感じる。時折対局者が立てる音だけが空間を支配するあの独特の空気感。本物の将棋さながらの緊張感がある。

そこにさらに主人公の存在感が乗っかってくれば面白いが、残念ながら他の将棋ロリコンアニメとは違い、主人公は竜王ではないので敵なしとはいかない。(笑)

そこがまた面白いところでもある。上に登ろうとするからこそ生まれるストーリーも当然面白い。序盤ではまだ主人公に将棋を指す理由や、プロになって勝つ理由も見当たらない。将棋の腕も最強には程遠い。

先述の通り、この作品は過去を紐解く作品。現実から未来へと向かう過程で確実に「主人公の目的」ははっきりと描かれるはずで、そうなれば目的を見つけた主人公の成長は一気に加速していくに違いない。

6話あたりの回想で、主人公が将棋を極めたきっかけは「師匠の存在」であることが明らかになる。両親と妹を事故で亡くし、居場所を得るために「将棋が好き」という嘘をつき師匠に取り入る。

将棋が好きであることが目的ではない。将棋をすることでしか居場所を確保できないから将棋を打つ。それが過去の主人公。

それが明らかになってからの現在で、主人公が何を目的としていくのか。目が離せない展開が続く。

将棋をする理由

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

主人公は将棋をする理由を持たない。

師匠の元で育ったから。プロ棋士である師匠の家で居場所を作るために必要だったから将棋を習い、そのまま自分の居場所を作るための手段として将棋を打ってきた。

そんな主人公が様々な出来事を通して、自分だけの「将棋を打つ理由」というのを徐々に見つけていく物語でもある。

あるときは親友を勝手に名乗るライバル。体が弱いにも関わらず、如何なる時も勝負を投げずに相手に挑み、主人公が苦しんでいる時にも影で支えたり、叱咤激励したりしてくれる存在。

あるときは3姉妹の次女の想い人。主人公の言葉を理解して共感してくれる存在。同世代の彼とのコミュニケーションが、主人公に新しいモチベーションと心の余裕を与える。

またある時はプロ歴40年のベテラン。クラスがなかなか上がらないまま40年という月日を将棋に費やしてきた老人。「好き嫌い」。そんな言葉では表せないほどの40年経っても色あせない将棋への情熱。

いろんな人の存在で、言葉で、主人公の景色は色づいていく。

人間一人で変わることはできない。いろんな人との関わりの中でいろんな価値観を学び、自分なりの生き方を見つけていく。

主人公は肉親がおらず、1人暮らしで無気力な生活を送り、無気力なまま機械のように将棋盤と向き合う。

そんな主人公が徐々に居場所を得て、周りの人の優しさと思いやりによって成長し、自分なりの生き方・そして将棋を打つ理由を見つけていく。

ただ成長の過程には必ず頓挫はある。22話という尺の余裕があるにせよ、そこもしっかりと描かれている。

主人公は将棋を打つ理由を徐々に見出し、努力して強くなろうとする。しかしその結果自我が増大し、気づかぬうちに努力していない周りの人間を見下すようになる。

主人公は「獅子王戦」というタイトルがかかった戦いで負ける。因縁の相手が決勝で控える状況を意識するあまり、目の前の相手の力量を見誤り完敗を喫する。

若さゆえの過ち。努力している自分が努力していない相手に負けるわけがない。努力をしていないわけがない相手を見下して頭を勝ち割られる。これは勝負事なら誰しも経験することではないだろうか。

そういった失敗を主人公は経験する。赤っ恥をかくような失敗を経験し、また自己嫌悪に陥る。そこからまたリバウンドで這い上がることでサクセスストーリーは一層盛り上がる。

自分は頑張っているから負けるわけがない。ついつい自分以上に頑張っているかもしれない「相手」を抜きにして考えてしまう。本当にあるあるすぎて困る。

目的は勝つこと。そのための手段が努力であって、勝負事には過程を抜きにして考えないと痛い目を見る。過程を意識すると目の前の相手に集中できなくなる。

これは言葉では分かっていても、なかなか割り切るのは難しい。これを割り切れるのも経験のうちなのだろう。

このアニメは勝負の世界の厳しさまでとことん教えてくれる。癒しの日常パートから一転、将棋の対局では真剣そのもの。張り詰めた空気と心理描写。思わず画面にくぎ付けになる。

周りの人の影響で将棋にのめり込んでいく主人公は、失敗を経験しながら少しずつ高みへと登っていく。

総評:温かい

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

温かい世界に溢れた全22話だった。

友達もいない。学校にも行かない。家族もいない。将棋に対する熱意もない。最初は何もない主人公が温かい家庭との触れ合い、そしてライバルや尊敬できる人たちとの出会いを通して成長していくストーリー。

22話という尺をフルに使って、段階を踏みながら一歩ずつ成長していく。いろんな人との出会いが新たな気づきを与え、失敗も経験して、周りに励まされて大切なことに気づいて、また前を向く。

心が温かくなるとともに自然と前向きになれるような作品だ。

しかし中盤以降は少しダレる場面もある。主人公が獅子王戦で負けた相手(島田さん)が主催する研究会に入った後は、あまりにシリアスが多い。

島田さんは胃が弱い。彼が激しい腹痛と戦うたびにこちらも心が締め付けられる。自分を痛めつけでまで将棋盤と向き合い、命を削る姿は痛々しくて見ていられない。

そんな感じのシリアスパートが中盤に結構長く入っている。故郷への思いと勝利への渇望、ストレスから来る胃痛との戦い。

自分を極限まで追い込んでいるシーンにはこちらまで胃がキリキリするし、程よくギャグシーンが入っているとはいえ、温かさは微塵もない。

故郷のために名人へと上り詰めようとする島田さん。しかし進めど進めど嵐はやまない。嵐を潜り抜けても、さらに激しい嵐が続くだけ。

そんな終わりのない熾烈な勝負の世界を、リアルに映した描写が中盤あたりは非常に多い。

もちろん勝負の世界をリアルに描くという意味では緊張感が生まれるし、島田さんに対する尊敬の念、そして応援する気持ち、さらには主人公が変わっていく大きなきっかけにもなっている。

作品として見ればシリアスも重要だが、あまりにピンと張り詰めた空気が続いたせいか、観ているこちらまで雰囲気に飲まれてしまった。

それほど勝負の世界をリアルに描いているということなのだろうが、序盤からの落差があまりに大きすぎるし長すぎた感じだ。

だがみな共感はできるはずだ。誰もが勝負の毎日。勝つか負けるかのプレッシャーと戦っている。島田さんのように病気を抱えながら戦っている人も大勢いる。

そういう意味では、そこを濁さずにストレートに描いてくれたことには感謝すら覚える。決して生易しいものではないし、生易しくてはいけない。

熾烈な境遇の中でも、必死にもがく島田さんや主人公の姿には勇気をもらえるし、自然と感情移入もできるというもの。

もちろんシリアスばかりではなく、3姉妹とのゆるーい日常には癒しがあるし、懐かしさを感じる古民家には郷愁を感じてしまう。

懐かしくて温かい。シリアスの後の日常エピソードはたまらなく尊く愛しいものだった。

主人公は最終的に自分が将棋を打つ目的を見つける。より高みを目指すこと。そしてその先にはヨッシャルが元となった「名人」へと繋がっている。ラスボスだ。

過去に闇を抱える主人公が優しさに触れて成長していき、仲間と切磋琢磨して目標となる人物の背中を追いかけ強くなり、ラスボスが待つ場所へと至る…

ストーリーの流れは綺麗に繋がっており、22話なのでさすがにダレる瞬間があるものの、全話通して優しさマシマシ、将棋マシマシでとても中身の濃い作品だ。

特に将棋パートは真剣そのもの。直に緊張が伝わる演出だったり、棋士の思考だったり、駆け引きだったり。

戦術などはさっぱり分からないが、駒の解説も途中にあったりして、誰でものめり込んでしまう将棋アニメになっている。

残念ながら1期は少し中途半端な終わり方で、ラスボスを倒すには至らないが、どうやら2期があるそうなのでマイナス査定にはならない。

まだまだ伏線は残っており、2期を観ないと評価できない部分も多くあるが、1期単体で見ても素晴らしい作品だ。

雑感:将棋打ちたい

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

なんだか無性に将棋が打ちたくなってしまう作品だ。

駒の進み方しか知らないし、子供の頃に少し遊んだ程度の経験値しかないが、「3月のライオン」を観ていたら無性に打ちたくなる。

それくらい将棋を深く掘り下げつつ、初心者にも分かりやすいような解説があることで雰囲気がつかみやすいし、さらに将棋独特の静けさや心情を露にする演出にも工夫があるしで、ついついのめり込んでしまえる作品だ。

この記事が上がったら少し将棋を打ってみようと思う。(笑)相手はもちろん初心者だが。(笑)

ぜひ将棋に興味がない人も一度この作品に触れてみてはどうだろう。オススメだ。

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