(76点)全12話
小宮千尋は、ある日突然母を亡くしてしまった。身寄りのない千尋に手をさしのべたのは、叔父である鷹取円だった。そのまま円の豪邸に連れていかれるが…!?TVアニメ「少年メイド」公式サイト
少年メイドの日常を描いたアニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (76点) |
完走難易度 | 易しい |
原作は乙橋先生。
監督は山本裕介さん。
制作はエイトビット。
メイド
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
このアニメは「少年」がメイドとして働く日常を描いたアニメだ。
母親を亡くした主人公の少年。母親の弟にあたる叔父の家に引き取られ、立派なお屋敷でメイドとして雇われるというストーリーになっている。
小学生にして両親ともに居なくなってしまう寂しさ。面識のない叔父。貧乏アパートとは比べ物にならない立派なお屋敷。
いろいろな出来事が目まぐるしく起こり、小学生の心の許容量を余裕でオーバーするような出来事の連続。
当然主人公の少年も、悲しみが癒えない中での突然の環境の変化についていけずに、根を詰めすぎて頑張りすぎてしまう。
しかしそんな子供の健気な頑張りを大人が察して、今までなかった子供部屋を用意する。主人公の「居場所」だ。
子供を優しく包み込む大人。そこには優しい世界がある。
そもそもお屋敷に住むほどのお金持ちが親戚にいること自体奇跡だし、小学生が家事全般をこなすほどハイスペックなのも不自然ではあるが、1話から分かりやすく優しい世界があり、何を考えずとも作品に心を委ねることができる。
叔父のギャップも魅力的だ。普段はおちゃらけて何かと主人公を「男の娘」にして遊ぼうとしたり、不真面目な発言や行動をしたりするが、仕事モードに入ったときにはキリッとした表情になり、ギャップをしっかりと演出している。
3枚目と2枚目の使い分け。バリバリの仕事人間な一面と、主人公に自作の可愛いメイド服を着せて遊んだり、犬を過剰に怖がったりする子供っぽい一面。
1話から登場キャラ全ての魅力が詰まっており、日常アニメならではの空気感が愛おしく感じる作品だ。
優しさ
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
なんとも優しさにあふれた作品だ。
日常アニメなので当たり前といえば当たり前なのだが、性悪なキャラは誰一人いない。
叔父も秘書も新入りのメイドの女の子も、主人公の友達も主人公の母親も、みんなが主人公のことを想い、支えようという気持ちが見える。
2話では主人公の友達が素性をはぐらかす主人公を疑い、尾行して屋敷までついていく。そこで優しい叔父を観た友達は、安心して「何か相談事があれば素直に言えよ」と声をかける。
小学生なのになんてできた友達なのだろうか。年を重ねるとこういった何気ないやり取りにもウルッと来てしまう。(笑)
主人公と叔父の関係も回を追うごとに着実に深まっていく。
最初は異なる環境で戸惑い、初対面で癖のある叔父になかなかなじめなかった主人公も、2話では好きな食べ物が何かが気になるようになり、流れで名前呼びもするようになり、自分から距離を詰めようとしている。
自分から距離を素直に詰めるような性格でないのがまた良い。主人公はいわゆるツンデレだ。普段は叔父を突き放すような態度をとっているのに、いざという時は子供っぽい素直な一面を見せる。
逆に普段は子供っぽい性格の叔父は、仕事のときは真剣そのもので、主人公の全てを受け入れる度量の深さを見せる大人な部分もしっかりある。
隙あらば主人公に猫耳をつけて撫でまわしたり、可愛い服装を着せようとしたり、束縛の激しい彼女のようにしつこくメールしたり…(笑)
かと思えば、デザイナーの仕事には真剣だったり、卵焼きを作れない主人公を優しくフォローしたり。デキる大人でかっこいい。
同時に、されるがままのちーちゃん(主人公)もなんとも愛おしい。猫耳を付けた姿は危うい可愛さを持っている。だが男だ。
重要な役どころのである主人公と叔父。2人のキャラのギャップが魅力的で、優しい世界の中にひっそりと小さな笑いもある。
序盤の段階ではあるが、日常アニメで個人的に求める全ての要素を兼ね備えている作品だ。
3話
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
3話で少しアニメの世界観にひずみが起きる。
1、2話ではただ優しい世界だけがそこにあったが、3話にして少しシリアスな空気になる。
それは主人公が黙って捨て犬を拾ってきたシーン。
叔父と秘書の2人に内緒で捨て犬を拾ってきた主人公は、最初はこっそり飼っているが、すぐにばれてしまう。
叔父は内緒で拾ってきたことに怒るのではなく、「どうせ言っても断られるだけ」と主人公に思われている、つまり「信用されていない」と感じた叔父は傷ついてしまう。
それを機敏に感じ取った主人公は、次は「なんでも言うから」と約束をする。
しかしこのシーンこそ、2人の信頼が深まっていく過程だ。なあなあで信頼が深まっていくことなどありえない。
主人公の身の上を心配して、善意100%で自分の屋敷に受け入れた叔父。当然主人公が好きでなければそんな行動はできない。
そういう意味では、叔父の主人公に対する信頼は最初からMAXと言っていい。
しかし主人公からすれば出会ったことのない大人であり、つかみどころがなく、知らないことばかり。
だが捨て犬を切っ掛けに2人は着実に信頼を深める。主人公にとっての叔父が、亡くなった大好きな「母親」に近い存在になっていく。
以前の主人公は捨て犬について「責任を持てなければむやみに拾うべきじゃない」という意見を持っていた。
それが叔父と出会ったことで、捨て犬を放っておけない性格に変わったということになる。これは間違いなく叔父の影響だ。
叔父もまた主人公を「拾った」身だ。自分を拾って育ててくれている叔父の影響で、主人公もまた「変化」している、「成長」していることを示唆するシーンだ。
その後、犬嫌いなのに犬を屋敷に置いてくれた叔父の優しさを思い出し、ツンデレだった主人公が素直に感謝の気持ちを伝える。
主人公の変化や成長。叔父の優しさ。叔父の優しさを感じ取ることで生まれる主人公と叔父の関係の変化。日常系のアニメらしからぬ丁寧な描写が素晴らしい作品だ。
伏線
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
中盤で登場する老婆。彼女が終盤に向けての伏線となる。
素性がわからないまま主人公に接触し、主人公はおばあさんの名前もわからないまま仲を深め、終盤に彼女が実は叔父の母親、つまり主人公の実の祖母であることが判明する。
つまり本家の人間で、序盤から隠されていた「母親絶縁の秘密」を握っている張本人である。
主人公の母親は祖母に、主人公の出産を反対され家を出たという過去があり、母親と祖母はそれ以降絶縁状態になる。母親は亡くなってしまっているので、死別してしまったということになる。
終盤に向けての伏線までしっかり仕込んである作品だ。子供思いな優しい母親がなぜ本家から縁を切られたのか。
一番大事な謎を最後まで温めておき、中盤にキーとなる祖母を登場させ、叔父に似ていることを匂わせつつ、終盤に叔父と祖母が対面して関係性が明らかになる。
そこから作品の雰囲気はまたシリアスに変わる。親子の縁を切る理由を深堀りするのだから当然ではあるが、少しらしくないなという印象もある。
だがこの作品はシリアスを許せる。キャラクターを芯から愛せるからシリアスにも違和感はない。
叔父に似ている祖母が悪い人なわけがない。叔父と祖母がなぜ不和になっているのかを知りたいと思うし、母親と縁を切った理由を知りたいと自然に思っている。
だからこそ、祖母と母親の絶縁の理由でもある「出産に反対するシーン」というのを入れるべきだったと思う。
祖母が出産に反対したというのはウィキの情報で、アニメでは「なぜ縁を切ったのか」という肝心の部分に触れていない。
おそらく作品の世界観を壊しかねないほどのシリアスシーンなのだろう。ここまで作りこまれた作品なので、意図的にカットしたと考えるのが妥当だ。
確かに「出産する・しない」は日常アニメで放送するにはデリケートな問題だ。にしても伏線をお預けしたまま終わる、というのも同時にアニメ的には悪手だ。
事情があるにせよ、視聴者全員が気になっていたであろう「事実」をさらっとでも流してほしかった。そこだけが心残りだ。
総評:バランス
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
日常アニメ的な要素と他の要素が、うまくバランスを取り合っていた作品という印象だ。
お屋敷でメイドとして働く日常だけではなく、そこにギャップを持つ魅力的なキャラがいて、そんなキャラたちが織り成すギャグや人情的なストーリーもあり、ところどころにピリっとしたシリアスも織り交ざっている。
様々な要素が互いに足を引っ張ることもなく、どれか1つが目立ちすぎて違和感が出てしまったりもなく、どれもがバランスよく配合されていて、「少年メイド」という作品を構成している。
素直に面白い。日常アニメはともすれば退屈と隣り合わせだ。
しかし、この作品には魅力的なキャラクターはもちろん、主人公と叔父の信頼関係を示すようなエピソードの後にひと笑いがあり、感動とギャグのバランスが絶妙でしつこさがなく、スッキリとした後味になっている。
ストーリーも線で繋がっており、主人公の成長や叔父との関係の変化が丁寧に描かれている。
序盤で主人公が置かれた状況がはっきりと伝わる。小学生には処理しきれない様々な変化。戸惑う主人公。優しく包み込む叔父と秘書。
何でも一人で抱え込んでいた主人公は徐々に叔父を、秘書を、友達を頼るようになっていき、周りも主人公のありのままを理解し距離が縮まっていく。
最後には日常アニメには似つかわしくないシリアスシーンがあるが、いっそ違う顔を見せて欲しいと思ってしまう。「キャラを好きになる」という土壌があるのでシリアスが気にならない。
主人公の変化や成長。そして身寄りのない主人公を引き取った叔父の優しさや、本当の「家族」になるまでの過程がじっくり描かれており、この作品全てが愛おしい。
もっと見ていたい。そう自然に思える作品だった。
キャラのデザインもほんわかした作品の世界観にピッタリだし、背景の力の入れようは半端じゃない。ほとんど手書きだ。手書きの温もりがプラスされている。
叔父の声を担当された島崎信長さんの演技も素晴らしい。
叔父の優しさと島崎さんの優しい声色がピッタリだ。おそらく島崎さんの地声からはちょっとかすれ気味にしていると思うが、それがハマりすぎているくらいにハマっている。
もちろん主人公の声を担当された藤原夏海さんの演技も印象的。
某有名な野球アニメで存在は知っていたが、中性的な容姿のちーちゃんにピッタリで、ツンデレな演技で危うく新しい扉を開きかけてしまった。
日常アニメの中でも、特に思い出深い作品になったのは間違いない。
雑感:出来杉
©乙橘・KADOKAWA/少年メイド製作委員会
小5にして家事全般をこなすハイスペック。それだけにとどまらず可愛いなんて…恐ろしい。
一家に一台、いや、一家に一人ちーちゃんが欲しい。そう思うほどの出来すぎた小学生だった。
叔父にコスプレをさせられてなす術なく従順にしている姿がモーレツに可愛く、危うく違う世界に迷い込んでしまいそうになった。
掃除好きな可愛いツンデレ主人公。普段はおちゃらけているのに、仕事モードになったときと、誰かを守るときはキリっとした表情になる叔父。影で主人公を支える秘書。
どのキャラも素敵で魅力的でギャップが可愛くて愛おしい。
まだ観たことがないという人にはぜひ観て欲しい作品だ。