(52点)全12話
女の子がご飯をおいしく食べるアニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (52点) |
完走難易度 | 難しい |
原作は川井マコト先生。
監督は龍輪直征さん。総監督は新房昭之さん。
制作はシャフト。
ごはん
©川井マコト・芳文社/幸腹グラフィティ製作委員会
女の子がご飯を通じて仲を深めるハートフルごはんアニメ。
様々な料理が登場し、その料理をおいしく食べるアニメ。シンプル。
一緒に暮らしていた祖母を亡くし、両親が2人とも海外で働いているため、1人暮らしをしている主人公。
祖母を真似て料理を作るも、見栄えとは裏腹な、まずい料理しか作れない。
そんな孤独を抱えた主人公と出会うのが、はとこの女の子。
一緒に手作り料理を食べることで、誰かと一緒に食べることの幸せを思い出していくというストーリー。
若干主人公に重い設定が付いてはいるが、主人公が孤独で、ご飯がおいしく食べれないという境遇から始まることで、より「誰かと食べる」ことのありがたみが感じられるような流れになっている。
食事を誰かと食べるという環境は、実は当たり前ではない。個人的な話にはなるが、私も家族と一緒に最後に食事をしたのは、もう半年以上も前になる。誰かと食事をするのもせいぜい週1程度だ。
それこそコロナが酷い時は、1か月誰とも食事をしない時期もあったくらいで、1人の食事というのがいかに味気ないものかをよく分かっているつもりだ。
どんなに絶品な料理を前にしても、その美味しさを誰かと共有できなければ大して意味はない。自分にとってのそれは、ただ食欲を満たすためだけの「行為」でしかない。
料理というのは、一緒に食べる人がいると何倍も美味しくなる。これは意外と真理だと思っている。
主人公はいつも1人で食事をしているせいで、美味しいはずの料理を全く美味しく感じることができない。
しかし、はとこの女の子が家に遊びに来るようになってからは、料理をまた美味しく感じるようになっている。
料理を幸せそうに口に運ぶ主人公とはとこの女の子。料理のつやつや感も相まって、とんでもない飯テロアニメだ。(笑)
差
©川井マコト・芳文社/幸腹グラフィティ製作委員会
食事シーンと人情シーンで少しギャップを感じてしまうところが気になる。
食事シーンは官能的に。思わず吐息が漏れてしまうようなアツアツの料理を口へと運ぶ。料理や肌の艶を強調して、エロティックに描いている。
しかし普段の日常シーンでテーマになっているのは「家族」や「友情」だ。
主人公の家族のいない寂しさや、主人公のことを「これから知っていこう」と心に決めるはとこの優しさ。
そんな人情を描く世界観から一転して、食事シーンになると途端にカメラワークや演出がアダルトになる。ギャップが大きいというかもはや「真逆」と言っていい。
家族だ友情だとやっていたシーンから、官能的な食事シーンはどうしても結びつかない。違和感が出てしまっている。
官能的といっても、某食戟アニメのように振り切ったものではないから、中途半端ないやらしさが出てしまっている。いきすぎたセクシーはギャグになるが、この作品のセクシーはダイレクトなエロでしかない。
だから普段の感動を誘うような主人公の境遇や主人公への感情も、官能的な食事シーンのせいで少し損なわれてしまっているような感じだ。
話題は変わるが、総監督を務める新房さんらしさが存分に出ている作品だ。
キャラの顔をアップしたり、なめるように回ったりするカメラワーク。セリフの代わりに文字だけを挟んだり、キャラクターが後ろにのけぞってこちらを見たり。
一発でシャフトと分かるような演出の数々。相変わらず強いこだわりが見える。
しかし主張が強すぎるわけではなく、あくまできらら作品の可愛さを重視しつつ、少し乗っかる感じの良い匙加減になっている。
アクが強すぎない。しかし、日常と食事シーンで上手いことを均衡が取れていない感が強い作品だ。
総評:飯テロ
©川井マコト・芳文社/幸腹グラフィティ製作委員会
最高クラスの飯テロアニメだった。
料理の光沢と美味しそうに食べるキャラクターの表情。タイトルに違わない幸せに溢れたグルメアニメだった。
料理の背景にある家族愛や友情で、より一層食事シーンが盛り上がり、一度しかない青春を友達と一緒に過ごす。そういった刹那の寂しさを感じるアニメでもあった。
誰かを思って作るから美味しい。大切な人と一緒に食べるから美味しい。それぞれに「愛」がこもっており、ただの料理以上の価値が生まれている。
個性あふれた仲良し3人組だからこそ生まれる空気感と、3人で一緒に食べるからこそ生まれる幸せ。
そういったものが12話通して徐々に醸成され、最後にはかけがえのない唯一無二の空間が出来上がっている。
誰かと一緒に食べるご飯の美味しさ。それを思い出させてくれるような温かいアニメだった。
しかし、おそらく原作を踏襲しているであろう官能的な描写を使った食事シーンは少し違和感がある。「きらら」らしくないといえば分かりやすい。
きららとエロは対極にある。そのエロをこの作品は結構重宝しており、食事シーンでは必ずと言っていいほど、キャラクターがセクシーな声を漏らす。
確かにそれはこの作品のこだわりでもあり、アイデンティティでもある。食事とエロを繋げている作品は他にもあるからそこまでおかしくはない。
ただこれは可愛いが正義のきらら作品であること。そして食事の裏では、家族愛や友情がテーマとしてうたわれていること。
それらを考慮すると、果たして官能表現は相応しかったのかどうか。どうしても12話通して違和感がぬぐえないままだった。
例えば、某食戟アニメのような振り切ったエロならいやらしさはそこまでなく、むしろギャグとして楽しむことができる。
だがこの作品のエロは中途半端なエロで、あからさまに吐息が漏れたり、口元をアップで映したり、肌の艶が異様に増したり。
エロさというところを強調したような表現が目立ち、どうしても日常パートの雰囲気にそぐわない感じが出てしまっていた。
せっかく「愛を」感じて和やかな気持ちになったまま食事のシーンに入っても、そこで官能的なシーンが入るから気持ちがリセットされてしまう。
温かい気持ちのまま温かいご飯にありつけば、それこそ「幸せ」の絶頂だと思うのだが、そこはもったいなく感じる。
後はどうしても一本調子で広がりに欠けたところも気にはなる。日常アニメなので仕方がない部分はあるが、基本的には料理を作って食べる。その繰り返しだ。
料理の種類が違うだけで、基本的にはいつものメンツで食卓を囲み、食事以外では何の変哲もない日常を送る。
ストーリーが広がっていかない。変わらないコミュニティの中で料理を食べる。シンプルが故の退屈がある。
演出の癖も化物語ほど強くはなく、見どころはそれほどない作品だった。
雑感:皆で食べると美味しい
©川井マコト・芳文社/幸腹グラフィティ製作委員会
料理は皆で食べると美味しい。それを再確認したアニメだった。
1人で食べる料理ほど味気ないものはない。誰かと料理の美味しさを分かちあって、他愛ない言葉を交わしながら、一心不乱にかきこむ。
そこには確かに幸せしかない。幸せの象徴のような尊い空間だ。
子供の頃、毎日家族と一緒に食事をしていた時を思い出してしまうような、久しぶりに家族や気心の知れた友人と食事がしたくなるような、そんな作品だった。
食事の幸せを切り取った作品にしては一癖ある作品だが、興味がある人はぜひ観て欲しい。