2020年

【2020アニメ】「八男って、それはないでしょう!」アニメレビュー





(16点)全12話

食品関係の商社に勤めるサラリーマン ・一宮信吾が目を覚ますと、
異世界の小さな子どもになっていた。
ド田舎の貧乏貴族の八男・ヴェンデリン(5歳)となった彼は、
領地も継げず、先も見えない手詰まりの境遇の中、
魔法の才能に恵まれたという一点を突破口に独立を目指す。
やがて12歳となり、冒険者予備校の特待生となったヴェンデリンは、
ある事件を解決した功績により、貴族として身を立てることとなる。
だがそれは、貴族社会のしがらみに振り回される人生の始まりに過ぎなかった――TVアニメ「八男って、それはないでしょう!」公式サイト




八男に生まれ変わる異世界転生ファンタジーアニメ

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (16点)
完走難易度 超難しい

原作はY.A先生。

監督は三浦辰夫さん。

制作はシンエイ動画/SynergySP。

転生

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

このアニメはいわゆる異世界転生アニメだ。

サラリーマンとして働いていた主人公があるとき、疲れから眠ってしまい、そのまま異世界に転生されてしまう。

転生先は没落貴族の八男。「貧乏な上に八男」という危機的状況ながら、何千人に一人という魔法の才能を師匠によって見いだされ、冒険者予備校に通うというの序盤のあらすじだ。

今話題沸騰の量産型異世界転生アニメだ。もちろんこの作品ならではのオリジナリティはあるが、正直「またか」という印象は否めない。(笑)

ただ異世界転生アニメは単純にスカッとするので好きだ。前世ではあまりうまくいっていない主人公が、異世界では思うがままに最強を謳歌する。なんとも夢のある話だ。

このアニメの主人公は「没落貴族の八男」という受難を背負う。貴族的な暮らしとは程遠い貧乏な暮らし。そして八男という肩書きは家督争いにおいて一番不利になる。

主人公が異世界で置かれた状況というのが丁寧に説明され、作品に入りやすいように設計されている印象だ。

しかし、ところどころでツッコまずにはいられないシーンもある。

例えば家督争いというフリがあるにも関わらず、特にこの作品では、そのような血みどろの跡継ぎ争いみたいなのは生まれない。

序盤でまだ主人公が家を出て冒険者予備校に通う前に、主人公の兄にあたるキャラが、主人公が魔法の才能に恵まれていて、何か裏でこそこそやっているのではと嗅ぎ付け、主人公の行動を観察しているシーンがある。

自分の方が家督に近いのに、才能に恵まれているかもしれない八男を妬ましく思い、もしかしたら家督を奪われてしまうかもしれない焦燥感に駆られる。

きっとそんな感じで、主人公に何かしらのちょっかいを出すと思いきや、結局は何も起こらずに主人公は無事に家を出てしまう。7年もあったのだから、ひと悶着あっても良いものだが何も起きない。

さらには主人公の師匠に当たる人物が主人公に、冒険者予備校に通うための道筋が困難であることを、地図を使って説明するというシーンがある。

家族団らんの食事シーンでも、主人公は父親に「学校に通わせる金がないから無理」ときっぱり言われている。

そんな感じで、散々冒険者予備校に通う難しさについて触れておきながら、3話では何もなかったかのように冒険者予備校に入学している主人公。

苦労してお金を貯めるような描写も、苦労して山脈越えをするような描写もない。いろいろと流されたまま進んでしまっている。

しがらみ

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

このアニメが他の量産型の転生アニメと一線を画すのは、「貴族のしがらみ」というのを意識して作られているところだ。

貧乏な貴族の生まれでもフォーマルなパーティーでは正装をして、成人したら働きに家を出るのが決まりで、爵位を得た主人公は貴族同士の争いや政治利用の道具として見られるようになってしまう。

兄の結婚式の準備をするシーン7では「寄親・寄り子制」という中世の日本で使われていたシステムが登場する。

お金がなくても何とか出し物を出さなければいけない。寄り親に恥を欠かせないためにも出し物を出さなければ…という兄弟揃っての一連の会話がある。

「貴族社会の煩わしさ」みたいなものが強調されており、主人公が大きな力によって、あちらこちらへ振られる様子を描きたいというのはなんとなく伝わる。

しかし異世界転生アニメという世界設定にしては、なんともみみっちいことをやっているな、という印象だ。

序盤で魔法の才能を見いだされ、師匠の元で修業をし、別れを乗り越え、念願の冒険者予備校に通い始めた主人公が貴族同士の争いに巻き込まれて心労を抱える。

挙句の果てには屋敷の厨房で味噌づくりに励んでいる。(笑)

貴族同士のいざこざに巻き込まれる主人公を描きたいなら転生でなくても、主人公が魔法を使いこなす必要もない。どうしてもストーリーが迷走してしまっているようにしか映らない。

冒険者予備校に通っているのに4話の時点でいまだに冒険をしていない。爵位をもらって貴族同士の言い争いを見せられて。まだ何をしたいアニメなのか掴めない。

セリフ

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

主人公が全く冒険をしていないのも気になるが、主人公のセリフはもっと気になる。

3話の厨房で味噌を作っている主人公。モノローグで前世において取引先の相手から「発酵と腐敗」の違いについて質問され、「答えは同じ。人々によって有用なのが発酵。害なのが腐敗」という答えを教えてもらったな、と主人公は回想する。

まず、なんで突然発酵と腐敗の説明をされなければいけないのか分からないが、その後、主人公は仲間や兄と一緒に食事をするシーンで

「貴族だって同じかもしれない。いろいろ面倒なこともあるけど、どのみちこの世界で生きていくしかないんだし、それならみんなに発酵貴族だって思われるように要領よくやっていく方がいいような気がする」

というモノローグがある。正直意味が分からない。

異世界で生きていくという決意はとっくにしたはず。転生して7年も経っているのに、今更適応していくニュアンスのセリフは違和感しかない。貴族を発酵に例える意味も分からない。

ようは人々にとって有用な貴族でありたい。そういうことを主人公は言いたかったのだろう。わざわざ発酵と腐敗の違いを持ち出す必要はないし、発酵貴族だって思われるには「要領よくやればいい」という流れも意味不明だ。

さらに、4話の冒頭では主人公のフィアンセ候補のヒロインが登場する。そこでの主人公のセリフが

「まだ未成年ですから婚約になるんですかね。ということは、あと3年で独身生活とはおさらばですか。ついに年貢の納め時、なんて。アハハハハ。」

と冗談交じりにフィアンセのお爺さんに言う。笑っているが何も面白くはない。

主人公の年齢は12歳。12歳から「独身生活とはおさらば」とか「年貢の納め時」という自分が未婚であることをネタにするような、30代後半のおじさんみたいなギャグが飛び出すわけがない。

主人公のキャラが迷子になっている。常々妻が欲しいと思っていたわけでもないし、そもそも13歳で独身生活がなんだ、と言うなど多くの成人男性からすれば片腹痛すぎる。

単純にイラっとするようなセリフが多い。ただでさえ異世界転生アニメの主人公はスカしたような態度や、ハーレムを謳歌するような展開が鉄板で、男性陣からは羨望と嫉妬のまなざしで見られ、その人間性を厳しく査定される立場にある。

残念ながらこの作品の主人公は、好きになる要素が見当たらない。

人間的な魅力に乏しく、意味の分からないかっこつけたようなセリフで何とかキャラを演出しようとしている感が余計に寒い。

それ以降も脈絡のないセリフが数多く登場するが、全てにツッコミを入れていたらキリがない。

価値観

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

主人公のセリフもおかしいが、サブキャラの価値観やセリフもいろいろツッコミどころ満載だ。

主人公が「出会って1分で婚約」したことを仲間に話すと、その仲間は「1分もあれば良いほうでしょ」というセリフを吐く。

婚約に1分もあれば十分?一体どんな世界だろうか?

婚約相手が決まっているとしても間違いなく1分では済まない。異世界の価値観とはいえ、サラッと流されるには衝撃が強すぎるセリフだ。

その後、そのセリフを言ったキャラはなんだかんだあって、主人公の家臣となる。主人公は身辺の煩わしい一切を他人に押し付けるために、パーティーメンバーの1人を家臣にする。

直前の過程から読み取ればそれは「雑用係」と大差ない。主人公は仲間の1人に雑用を押し付けるために、よく考えもせずにお金を出して「手下」にする。

その仲間は、主人公とパーティーを組んで一緒に冒険をする「仲間」のはずだった。

それなのに突然主人公の気まぐれで家臣となる。しかもそれに対して「やったー!」と喜ぶ仲間。

貴族社会では力のある者の家臣となることが名誉なのは分かるが、何のために仲間になるまでの過程が描かれたのか。

手下のような扱いを受けても、家臣という肩書きがあれば平気なのか…なんとも薄っぺらい関係性だ。

さらにパーティーメンバーの女の子2人も、一足先に家臣となった仲間をアッと言わせようと、主人公の「側室」になることを志す。

自分の家は陪臣の家だから、と自ら側室という立場になりに行くヒロイン。あまりに現代の価値観とそぐわなすぎる。

寄り親寄り子制や、貴族同士の争い、家臣になって喜ぶ仲間、さらに正室だ側室だとこのアニメの世界観は中世の価値観に沿って描かれているため、どこか馴染めない。

それにヒロインが進んで側室になろうとするのは、さすがに志が低すぎやしないだろうか。そこは正室の座を奪うくらいの方が盛り上がるし、応援もしたくなるというもの。

なんとか主人公に気に入られようと、露出の多い衣装で創作ダンスを踊るヒロイン。悲しくて涙が止まらない。

かっこつけたようなセリフを吐く主人公。パーティーの仲間として一緒に冒険をするはずが、自分の立場が主人公より下になることを喜ぶ仲間たち。

もはや主人公だけではなくパーティーメンバーの心も、主人公とメンバーの関係も、何もかもが理解できない。

総評:カオス

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

一体何をしたいアニメで、何を感じて欲しいアニメだったのだろうか。

主人公は異世界に転生し、そのまま貧乏貴族の八男として暮らし、魔法の才能に恵まれ、師匠の元で修業をし、死別を経て冒険者となる。

序盤の流れでいえば主人公が魔法の才を生かして冒険者として大活躍して、その名をとどろかせる主人公最強アニメそのものだ。

しかし、冒険者予備校に入った直後からおかしなことになる。

予備校での日常はいつの間にか消え、味噌作りが始まり、パーティーメンバーが主人公の家臣や側室に進んでなろうとし、ようやくそれらしい龍退治が始まったかと思いきや主人公の活躍は描かれず、謎の運動会が始まったかと思いきや主人公は弁当係で、またまた修行が始まったかと思いきや3年分の尺が飛ばされて成人となる。

何のために予備校に入学したのか。何のためにパーティーを組んだのか。何のために魔法の腕を磨いたのか。何のために八男という設定にしたのか。

全てにおいて「目的」が見当たらないからストーリーの方向性も定まらず、終始迷子のようなストーリーが繰り広げられている。

観終わった今でも何も感じないし何も残らないアニメだ。

一般的な異世界転生アニメのレールを嫌ったのかは知らないが、ところどころのキャラのセリフや行動も支離滅裂な場面が多く、ついには主人公があっけなく側室を受け入れたときは空いた口が塞がらなかった。

しかも側室となった後も特にそれらしい交流はなく、臣下だなんだ、側室だなんだの下りは一体何だったのか分からない。

中世の価値観と、西洋の建築が立ち並ぶ街並み、魔法というファンタジーな世界観。基盤となる世界観にしてもカオスそのもので、ぐちゃっとした気持ち悪い印象も終始付きまとう。

バトルの作画は枚数を過剰にカットしているということはないが、そもそもバトルをしていないので評価に困る。

バトルを削るなら削るで、それ以外でしっかりとした方向を見せて欲しかった。主人公最強を心地良いまで貫き通してくれた方がスッキリするし、ヒロインが可愛くて主人公に人間的な魅力があればハーレムも十分成立する。

主人公に確固たる目的があればそれに至る障害も描ける。葛藤や衝突を描くことで絆が生まれる。

どうしてこうなってしまったのだろうか。八男らしい受難も序盤きりで、中盤以降は完全にタイトル詐欺になっているし、そもそも主人公に目的がないので終始フラフラしている感じだ。

主人公がやったことといえば味噌と醤油とマヨネーズを作ったことくらいだ。(笑)

ヒロインの貴族として成り上がりたいという気持ちや、男の子が運動会に向けて努力する姿勢など、要所でサブメンバーの魅力をしっかりと掘り下げているシーンもある。

ただそれがどうしても断片的で繋がりがない。「頑張っていはいるけど、それで?」となる。事前事後の物語がないのでキャラを好きになろうにもなり切れない。

何がしたいのかはっきりしないまま、誰にも魅力を感じられないまま終わってしまった不思議なアニメだった。

一応終盤の締めくくりはちゃんとした感じだ。序盤で主人公を妬ましく思っていた長男が再び登場し、彼の主人公に対する怨恨が頂点に達し、ついに主人公の命を狙うまでに。

最後には悪が倒され、主人公たちは元の暮らしを取り戻してハッピーエンド。しかしスッキリはしない。

ラスボスが主人公に恨みを持った兄。タイトル回収といえばそうなんだろうが、それでも地味さは否めない。バトルも大して盛り上がらない。

冒険者になるはずだった主人公は結局まともな冒険をしていない。最後には醤油工場を建てる夢を描いている。もはや冒険者予備校の存在は忘れ去られている。(笑)

最近の異世界アニメは異世界で調味料を作るのが流行っているのだろうか。終始絵面が地味なアニメだった。

雑感:惜しい

©Y.A/MFブックス/「八男って、それはないでしょう!」製作委員会

惜しい部分はある。素直に可愛いと思えるキャラもいるし、師匠との別れや八男という受難を乗り越えてのし上がっていくサクセスストーリーは面白い。

ただその場にある材料をうまく調理できなかった印象だ。調理師が誰かは言わずもがな。

原作がどのようなストーリーになっているかは分からないが、もし大幅改編の末にこのような物語になっているとしたら、それは原作ファンからすれば悲劇でしかない。

主人公が主人公をしていないし、もう少しじっくり深めるべきところがカットされて、余計な運動会や味噌づくりに尺が割かれている。

主人公は意味不明なセリフを言うし、ヒロインたちはこぞって主人公より下の立場になろうとする。

終盤登場した新キャラは料理を食べるだけで終わってしまった。一体何のために登場したのだろうか。

いろいろと酷いアニメだった。差別化を図ろうとして迷走してしまった典型的な異世界転生アニメという感じだった。




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