(76点)110分
高校生の出会いと別れを描いた青春アニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (76点) |
完走難易度 | 超易しい |
原作は住野よるさん。
監督は牛嶋新一朗さん。
制作はスタジオヴォルン。
出会いと別れ
引用元:© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
このアニメは男女の出会いと別れを描いた青春ストーリーだ。
ヒロインの死から始まるアニメなどこれくらいのものだろう。
死ぬことが分かっているヒロイン。
他の感動系のアニメでもヒロインが死んでしまう作品はあるが、冒頭に葬式のシーンが流れるのは、私の経験では初めてのことで驚いてしまった。
しかも葬式には主人公が出席していない。
今までにないような斬新な掴みで、強制的に物語に引きずり込まれる。
その後、2人が出会うシーンへと戻り、主人公がヒロインの日記を拾ったことで関係を持つようになる。
さらに日記には、既にヒロインが自分の死を予見している文章が記してある。
事故や病気で偶然死ぬのではなく、自分が近い未来に死ぬことを自覚しているヒロイン。
死を予見しているからこそ、残りの時間がより尊いものになる。
そんな「死」についても考えさせてくれる作品だ。
ネガティブ
引用元:© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
主人公がかなりのネガティブ気質なキャラとして描かれている。
他人に興味を持たない。他人も自分に興味を持たない。
周りとの関係を完全に絶って自分の世界に閉じこもる。
病院でヒロインの日記を拾い、ヒロインが死ぬという事実を知ったときも、全く興味を示さないという筋金入りの根暗キャラだ。(笑)
そんな主人公がヒロインとの出会いをきっかけに変わっていく物語でもある。
王道といえば王道な展開だ。
しかしこの作品は、主人公がただ淡々と成長する物語ではない。
ヒロインとの出会いから始まり、自分とは正反対のヒロインの明るさや優しさに触れて、他人に興味を持つようになる。
過程もしっかり描かれているし、ヒロインのカラッとした人間性も相まって主人公の成長に対する説得力もある。
ガム君やヒロインの親友という脇役キャラを上手く使いながら主人公の成長が描かれており、人間関係によって変化を描くキミスイらしさがちゃんとあった。
しかし少し説明くさいところがあったのも、同時に気になったポイントだ。
自分の変化や感情を言葉にするシーンが何度かあり、あざとさに冷めてしまう瞬間があった。
確かに言葉にすることで視聴者に伝わりやすいというメリットはあるが、感情を言葉にされると冷めてしまう人も多いはずだ。
「泣いていいですか?」と聞いて泣く主人公。
どこのシーンかは伏せておくが、せっかくの見せ場のシーンが台無しになってしまっていた。
死
引用元:© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
「死」という言葉が何度も出てくる。
「死ぬまで」「死ぬ前に」
死について深く考えさせる作品でもある。
ヒロインの言葉にもあったが、誰にも等しく死は訪れ、早いか遅いかの差しかない。
近い未来に死ぬことが決まっているヒロインよりも、主人公が早く死んでしまうかもしれない。
そして同時にそのセリフが伏線にもなっている。
どういう伏線かはここでは触れない。(笑)
今ある日常を大切に生きる。大切なことを教えてくれる作品だ。
総評:綺麗
引用元:© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
非常に綺麗にまとまっている作品だ。
100分という尺を使って描かれる出会いと別れ。
友情や恋愛を超えた関係に至る2人のやり取りが丁寧に描かれており、ヒロインが主人公と一緒にいようとする理由や、主人公の変化にも焦点が当たっているから、矛盾や疑問や違和感も全くない。
「臓器を食べるとその人の魂が永遠に生き続ける」
序盤のセリフや何気ないカットに謎を仕込ませて、終盤でどんでん返しを見せる演出も見事で、仕込ませ方も伏線回収のタイミングも絶妙だった。
チープなストーリーや演出がなかったのも好印象。
死ぬのが怖くて泣くヒロイン。抱き合って泣く主人公。
使い古された光景を見せるのではなく、「真実か挑戦かゲーム」「君の膵臓を食べたい」というユニークなゲームや言葉を使って死生観が語られており、文学作品ならではの深みがあった。
それだけに、主人公の成長や感情表現において安っぽさがあったことが勿体ない。
自分が変わったことを自覚して言葉にしたり、感情を表に出すときに不必要な宣言をしたり。
せっかくの感動シーンでも一気にしらけてしまった。
主人公とヒロインの親友の関係性にも違和感しかない。
「友達になって」と主人公がヒロインの親友にお願いするシーンがあるのだが、主人公の主体性が明らかに欠けている。
事情を知ろうともしないで主人公につらく当たり続けるヒロインの親友と、本当に友達になりたいと思っていたのか…
ヒロインの親友と友達になろうと思った動機についての掘り下げが明らかに弱い。
主人公とヒロインの親友が一緒にお墓参りをするラストのシーン。
他人への興味がなかったはずの主人公の最初の友達がヒロインの親友。
ヒロインの願いとはいえ、受動的な行動は主人公の成長とは矛盾しているように見えた。
さらに、主人公の声優を俳優が担当したことでも賛否両論あるみたいだが、素朴な演技は確かにピッタリハマっていた。
しかし演技の幅が狭く、単調な声のトーンだったり感情を表に出すシーンだったりで演技力の限界も感じられた。
作画においては文句のつけどころはない。
青春を感じさせるほんのりとした色合いで描かれる風景・キャラの表情。
キラキラ輝く水の透明感。舞い散る桜の花びらや雨の雫の一滴一滴。
風景の細かいところやキャラの表情の変化も柔らかいタッチで描かれており、終始優しさがこもっていた。
勿体ないところが随所に見られたが、総合的には素晴らしい出来だったように思う。
個人的な感想:膵臓を食べたい
引用元:© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
タイトルのインパクトが凄まじく、到底恋愛作品と結びつけることはできない。
しかし観終わった今となっては納得するしかない。
愛情や友情を超えた感情。
「星の王子様」というファンタジー世界を表現できるのもアニメならではで、作品の中身を知っているとより楽しめそうな仕掛けもあった。
「秘密」の関係も2人の絆をより強固にしていた。
ただヒロインの秘密を主人公が知るのではなく、主人公に興味を持って信頼を置いたうえで、打ち明けた理由も話しているから「秘密」がより大きな意味を持つ。
100分という尺の中で矛盾や違和感を生まないように丁寧に作られていた。
納得できない気持ち悪さ、いまいち感動出来なかった消化不良な感じはありつつも、一つのラブロマンスとしては非常に完成度が高い。
万人にオススメできる作品で、興味がある人にはぜひ観て欲しい作品だ。