(80点)
ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐率いる、帝国軍第二〇三航空魔導大隊は、
南方大陸にて共和国軍残党を相手取る戦役を征す。
凱旋休暇を期待していた彼らだが、本国で待ち受けていたのは、参謀本部の特命であった。
曰く、『連邦国境付近にて、大規模動員の兆しあり』。
新たな巨人の目覚めを前に、なりふり構わぬ帝国軍は、自ずと戦火を拡大してゆく……
時を同じく、連邦内部に連合王国主導の多国籍義勇軍が足を踏み入れる。
敵の敵は、親愛なる友。
国家理性に導かれ、数奇な運命をたどる彼らの中には、一人の少女がいた。
メアリー・スー准尉。
父を殺した帝国に対する正義を求め、彼女は銃を取る。TVアニメ「劇場版 幼女戦記」公式サイト
幼女が戦場を駆けるファンタジーアニメ
異世界に幼女の姿で転生をして、軍人として戦場を駆ける姿を描いたバトルファンタジーアニメ。
原作はカルロ・ゼン先生。
監督は上村泰さん。
制作はNUT。
狂った幼女
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
幼女と名の付くアニメでありながら、ごりっごりの軍事アニメで衝撃を受ける、でお馴染みの転生モノのバトルファンタジーアニメ。
主人公は幼女の姿をしてはいるが、中身はエリートサラリーマン。
同僚の逆恨みによって命を落としてしまい、「存在X」の手によって異世界へと飛ばされ、幼女の姿で軍人としてキャリアを積んでいくというお話。
名前はターニャ・デグレチェフ。
彼女(中身は男)はあらゆる面で狂っている。
「戦闘狂」で戦略狂で、自分に歯向かう部下を平気で処刑してしまう残虐性も持ち合わせる。
そんな幼女が狂ったように戦うアニメだが、戦場での冷静な判断や確かな指揮能力も光る。
決して人を殺すことを生きがいにするような狂い方ではなく、冷静に前進と撤退を使い分けることができ、的確に駒を動かす能力にも長ける。
上司として最低限部下を大切に想う気持ちも持っていて、戦いに向かう際の全員に向かって放つ言葉の重みと説得力には毎回驚かされてしまう。
類まれなリーダーでありながら、優れた言い回しで部下のモチベーションを引き出すことができるという、類まれなモチベーターでもあるのだ。
戦闘においても、天性の魔力量を活かした戦い方で圧倒的優位に立つ。
幼くして「少佐」という地位にまで上り詰めたように、戦場において彼女ほど頼りになる兵士は存在しない。
しかしターニャは決して戦闘狂ではない。
上の戦闘狂を「」で括ったのは、あくまで他人から見たターニャが戦闘狂だというニュアンスだ。
最前線に自ら進んで飛び込んで軍の活路を開く姿から、周りからは「ラインの悪魔」などと畏怖と敬意を込めて呼ばれてはいるが、本人はそんなことはなく…
意図せず最前線
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
彼女の根っこは平和主義者だ。
戦場で最も頼りになる存在なのは間違いないが、人的資源を失うリスクが高い戦争というやり方を好まない。
戦闘狂と思われがちな彼女も元来は「後方勤務」が夢の平和主義者だ。
安全な後方勤務で悠々自適な生活をしながら、キャリアを積んでいくというのが彼女の常日頃の目論見だ。
しかしその目論見がかなうことはない。
叶いそうになるところでいつも邪魔が入ってしまう。(笑)
今回の劇場版でもそのお馴染みの流れが2回ほどあり、実に不憫でならない。(笑)
おそらくは「存在X」という彼女を理不尽な世界に転生させた張本人の仕業に違いないが、原因はともあれ、彼女は後方勤務を望む度に最前線へ赴くことになる。
だが「彼女の才能を後方勤務で潰してしまうのはもったいない」という上官の考えには理解ができる。
彼女は最前線で戦ってこそ才能を十二分に発揮できることは間違いない。
彼女が戦場で見せる類まれな才能は本物だ。
リアル
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
戦場ではリアルな駆け引きが行われる。
もちろん生の戦場を見たことなど一度もない。
しかしまるで本物の戦場を見ていると錯覚するような光景が広がる。
怒号、悲鳴、弾薬が飛び交い弾ける轟音、人々が次々と血を流し倒れていく生々しい光景…
戦場で生まれる駆け引きにも注目で、戦争に参加している末端の軍人の気持ちまで汲み取ることで、非常にリアルな戦場が出来上がっている。
「自軍がこういう状況でこういう配置で、相手がこう出てくることが予想されるから、次の一手をこうしよう」
という敵軍と自軍の駆け引き。
上手くいくこともあれば、上手くいかずに失敗して劣勢に立たされることもある。
ターニャは「強く」はあるが、一人で戦況をひっくり返す力はない。「最強無敵」ではない。
目論見が外れることもある。
魔法という概念があると、つい「最強」な主人公像が連想出来てしまうが、ターニャはそういった主人公たちとは少し異なる純粋なリーダーで、意外と安全志向な普通の人間である。
戦場で戸惑うこともあれば、相手に足元をすくわれることもある。
そういった戦術的なリアルさ・戦場のむごさ・戦場に立つ人間の気持ちが描かれていて、この作品ほど、バトルアニメ好きにピッタリハマる作品はないと思うほどだ。
メアリー・スー
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
この映画でカギを握る人物がメアリーだ。
彼女は多国籍義勇軍の一員として連邦国に入り、己の正義を貫くため、侵略を続ける帝国軍と戦う決意を固める。
彼女はなんと、アニメ1期で殺されたアンソン・スーという軍人を父親に持つ少女だ。
父親はターニャとの戦闘で命を落とし、「ラインの悪魔」たるターニャに敵討ちをするために帝国軍との戦闘に参加をする。
親の仇を子が。この仇を親が。よく見かける展開だ。
メアリーは帝国への正義を果たすという目的で戦争に参加をするが、それは建前。
彼女は父親を殺めた(正確にはターニャが殺したわけではない)ターニャに復讐をすることが唯一にして最大の目的だった。
彼女は戦場でターニャを見かけると、軍の配列を無視して、単騎でターニャめがけて突っ込む。
メアリーは新米軍人で、戦いのいろはも経験も全くない。
それでも父の仇をとるために軍人になり、何度も死地を潜り抜け、自分よりも地力で圧倒的に勝るターニャに挑んでいくのだから、憎しみの大きさはその大胆な行動からも推し量れる。
最終的には一対一に持ち込んで死闘を繰り広げることになるのだが、勝敗の行方までは伏せておこう。
とにかく凄まじい戦いだった。
メアリーにも天賦の才が備わっており、ターニャ相手にもひるむことなく魔法を次々と打ち込んでいく。
ターニャも負けじと応戦して、純粋な命のやり取りが繰り広げられる。
空を高速で移動しながら魔法を撃ち合う2人の戦いは豪快そのもの。
画面にくぎ付けになり、思わず鳥肌が立つ。
純粋な殺し合いだ。
「父を殺した奴を何としても殺してやる!」というメアリーの鋭い眼光は純粋な殺意からくるもの。
ターニャには思い当たる節がなくはないが、戦闘に私情を持ち込むメアリーの気持ちが分からず混乱する。
しかし戦場で情けをかけたり戸惑ってしまったら、それは死に直結してしまう。
お互いの思惑や動機は違えど、命を奪おうとする2人の戦いは非常に見ごたえがあった。
難解
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
戦闘の激しさ、緻密さにおいてこのアニメの右に出るアニメはそうはないだろう。
しかし如何せん、用語と状況整理が難しすぎる。
セリフの節々に出てくる単語が、名前なのか地名なのか、はたまた軍事用語なのか…素人には判別がつかない。
恐らく一般教養を完全に身に付けた人間でも、全てを理解することは困難ではないだろうか。
状況を整理するのもアニメ1期と変わらず困難を伴った。
「どの国を相手にしていて、その国はどこのどういう国で、どういう戦況で、ターニャは誰と何のために戦っているのか、なぜ戦争をしているのか」
それらの要素の一部が迷子になることが多々あった。
毎回どの作品でもメモを取りながらアニメを観ているのだが、それでも時々「?」となってしまうような状況があった。
軍や戦争モノが大好きな人にとってはたまらないだろうが、素人の身からしたら「何が起こっているか分からない」というのは致命的で、中身が理解できなければ、もちろん作品を心から楽しむことはできない。
しかしあくまで「そういう観点で評価をするなら」という意味なので、酷評したいわけではないから勘違いをしないでほしい。
状況をイチイチ説明しないことで生まれる「深み」「アイデンティティ」みたいなものも、間違いなく存在する。
何度も言うように軍事・戦争モノが大好きな人にとっては、ターニャの独特な言い回しによる演説や、戦場での的確な指示に痺れてしまうに違いない。
それほどターニャという幼女の存在感は絶大で、替えの利かない生粋のリーダーだ。
リアルな戦場という局面のみを切り取るなら、ストーリー・作画含めて、このアニメは間違いなくトップレベルだ。
総評:ごりっごりの戦争アニメ
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
「幼女」というイメージからこの作品に入ると、痛い目を見る人がいるかもしれない。
アニメ1期に続いて劇場版も、かなりコテコテの戦争モノアニメだった。
幼女の可愛さや健気さなど微塵もない。
幼女が部下を率いて戦場を駆け、前線を切り開き、時には敵陣を蹂躙し、時には味方の援軍としてはせ参じ、時には思惑通り事が運ばずに狼狽えることも。
強い魔導士で唯一無二のリーダー気質でありながら、非常に人間味もあり、表情の変化にも富んでいる。
アニメの評価はさておき、ターニャという幼女は愛されキャラであることは間違いない。
周りを固める部下たちも、上司であるターニャを信頼して付き従い、戦場では命令に忠実に従い、身を賭して戦う。
癖はあるが頼りになる部下たちで、ターニャの信頼も厚い。
そういった信頼関係があるからこそ、よどみない連携が生まれ、敵軍を圧倒することができる。
決してターニャの独壇場ではないところがこの作品の魅力であり、他の作品と差別化できるポイントになっている。
厳しくもあれば、粋なところもあり。
そんな上司を信頼し、命を懸けて戦う部下たち。
戦場での「あうんの呼吸」も見ていて気持ちが良いものだ。
それだけに、物語の中身を理解するのに困難を伴うという点では、少し不満が残る。
「万人向けのアニメが良い作品だ」とまでは言わないが、もう少し流れを分かりやすく図解・解説してくれると、軍事の知識がない身としてはありがたい。
リアルな戦場を描くという意味で、「ターニャの部下が一人も死なない」という点にも疑問が残る。
ご都合主義で片づけることもできるが、弾丸や魔法が大量に飛び交う戦場で、相手方の兵士ばかりが死に、なぜかターニャの部下には弾丸が全くかすりもしない。
戦場の惨状や駆け引きをリアルに描くならば、そういったシーンを入れ込むことで説得力がさらに出たかもしれない。
ただ作画や音響的な迫力は凄まじく、何度も鳥肌が立ってしまうほどで、バトルが好きな自分としては熱くならないわけがない。
特にターニャとメアリーが戦うラストシーンは、そのシーンを観るためだけでも、この作品を一から観る価値があると言えるほどのクオリティだった。
バトルアニメ好きなら一見の価値ありだろう。
個人的な感想:異質なファンタジー
引用元:©カルロ・ゼン/KADOKAWA/劇場版幼女戦記製作委員会
何より異質さが光る作品だった。
幼女が戦場を駆ける。正気の沙汰ではない。(笑)
どんな暮らしをしたら、そんなアイデアが思い浮かぶのか。
ぜひ原作者にお話を伺ってみたいものだ。(笑)
一言言うと、決してディスっているわけではない。
異質だからこそ、狂っているからこそ、幼女戦記というアニメは光り輝く。
普通に転生して、最強の能力を授かって無双する…王道な展開も嫌いではない。
かなり見飽きてはいるが。(笑)
この作品は「転生モノの定義」を根本から覆すようなとんでもない作品だ。(もちろん褒め言葉)
幼女なのにめっちゃ強い。幼女なのに自分よりも一回りも二回りも大きい大男たちを従えて、的確な指示を出しながら前線の活路を開く。
表情の変化に富んではいるが、決して心からの笑顔を見せることはなく、照れたり恥ずかしがることも決してない。
そんな設定がどうしたら生まれるというのか。作者の感性には頭が上がらない。(もちろん褒め言葉)
戦闘の作画・音響も迫力があって、キャラのデザインに好き嫌いがあるものの、作画がブレることはない。
純粋な「戦場」というシチュエーションを、心行くまで楽しめる作品であることは間違いない。
軍事モノが好きな人にはかなりオススメだ。
似ている作品を挙げるなら「GATE」「コードギアス」「GGOオルタナティブ」「甲殻機動隊」などが思い浮かぶが、他にもいろいろあるはずだから好きに探してみて欲しい。
最後に「dアニメストア」は本当に優秀な配信サービスだ、ということも追記しておく。
こんなに映画を配信してるのに月額400円って…
経営が成り立っているのか、このご時世でもあり、ひたすらに心配だ。
400円で2019年に公開されたばかりの映画を観られることに感謝をし、こんな状況でもアニメを作ってくれている人たちに感謝をし、アニメを楽しみたいと思うばかりだ。
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