(10点)全10話
現代を舞台に、過去の『日本沈没』映像作品では描かれることの少なかった“ごく普通の家族の物語”を通じて迫ってくる“いま描かれるべき日本”。
未曾有の天変地異の中、究極の選択を突きつけられた人々が向き合う現実と再生の物語が始まる。TVアニメ「日本沈没」公式サイト
有名な「日本沈没」の2020年版リメイク作品
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (10点) |
完走難易度 | 超難しい |
原作は小松左京先生。
監督は湯浅政明さん。
制作はサイエンスSARU。
日本沈没
© “JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
何回か実写で映画化されている作品で、知っている人も多いだろう。
自分の記憶の中の「日本沈没」は草なぎくんが主演を務めたバージョンで、彼がクライマックスで命を投げ出すシーンは幼い自分の脳裏に深く刻みついた。
そんな日本沈没のリメイク版で、今作は全10話のネトフリ限定のアニメーションとなっている。
正直に書くと、観る前からいわばバイアスがかかった状態だ。様々な媒体で良くない評判を聞いており、期待値はそこまで高くない。
期待値が高くないからこそ、そこまで酷評される理由がどこにあるのか、逆に興味が引かれるところでもあるので、じっくりと見定めていきたいと思う。
そんな適当な意気込みはともかく、1話を観た直後の印象は早速「う~ん」という感じだ。(笑)
まずは大地震が東京を襲う。家族がそれぞれの場所で被災し、怪我を負いながらも何とか一命をとりとめ、とある神社で奇跡的に落ち合う。
大地震のインパクトは凄まじく、一気に静から動へと180度変わり、その迫力から否が応でも作品の世界に引きずり込まれる。
そこまでは至って普通だ。日常が一気に地獄絵図と化す。普通の光景ではないが天災を描いた作品の流れとしては普通だ。
だが気になったのはその後の展開。家族は被災した場所からそれぞれ家族の元へと移動するのだが、その過程が綺麗さっぱり端折られている。
いわばそこは、この手の作品の一番の見せどころと言っても過言ではない。被災して散り散りになった家族。運命に翻弄されながらも抗って強く生きて再び出会う。
そこに深い人間ドラマが生まれ、再会したときの感動を連れてくる。
だがこの作品ではそれが「不要」と言わんばかりに切り捨てられている。
飛行機に乗っていた母親は不時着した川で津波に襲われる。救命ボートを待たずに入水する母。迫る津波。溺れそうな子供。
子供を助ける母。肝心のその後がない。迫る津波に対してどう対処したのか。子供はどうなったのか。そこがまるっと飛ばされて気づいたら家族と一緒にいる。
他の家族にしても同じ。父親はスタジアムで被災してそこから原付で家族の元へ向かう。しかし途中でビルが倒れてきて、その衝撃で高架下の車に叩きつけられる。
だが次のシーンでは家族と一緒にいる。それどころか家族に居場所を伝えるために、神社を家の庭と同じ配色でライトアップするという、超絶めんどくさい方法で居場所をアピールしている。
大地震という緊急時に一体何をしているのか。(笑) 車に叩きつけられてもちゃっかり無事な上に、神社に生えている木々をライトアップする余裕などどこにあるのだろうか。もはや人間の思考ではない。(笑)
「困難を乗り越える」という過程を飛ばして、すんなりと何の感動もなく家族は再会する。
正直「ここから残り9話どうするの?」という疑問しかない。尺を持て余しそうな匂いしかしていない。
さらに、目に怪我を負っていた主人公の弟に父親が緊急処置を施すシーン。
「眼球は傷ついていない。傷ついているのはまぶただ。」と言って息子の目の血をサッと拭って、パチンと医療用ホチキスで止める。
恐らく父親は医師の資格を持っていない。彼はスタジアムの電光掲示板で工事の仕事をしていた。つまり無免許で息子の目をホチキスしたということだ。正気の沙汰ではない。
無免許で「目にホチキス」という危険な行為を息子に行う父親。なぜ医療用ホチキスを持ち歩いているのかも謎だ。
その後、畳みかけるように緊急時なのに家族写真を撮り、主人公は思い出したかのように急に嗚咽し出し、友達を置いて逃げてきたことを後悔する。
そして「友達は置いてきたのにスマホだけは持ってきちゃった」と付け加える。明らかにスマホの下りは必要ない。スマホを持っていることに別段驚きはないし、それで友達よりもスマホを優先したことにはならない。
主人公は「さっきまで元気だった友達が血まみれで倒れている」という現実を直視できずに逃げてきた。
それなのにスマホが云々というのは明らかに蛇足だし、「あなたがスマホを持っていたおかげで、~さんが電話できたんだから」という母親の慰めもよく分からない。
極めつけは1話の最後で人間が空から降ってくる。もうツッコミどころが多すぎてツッコミが追い付かない。新八でも捌けないレベルのボケの応酬。
このアニメが酷評されている理由を1話にして実感してしまっている。ここからどう盛り返すのかが楽しみではあるが、再会してしまった状態でどう広げるのか。お先は真っ暗だ。
移動
© “JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
神社が浸水の危機にあると知った一行は東京からの脱出を目指す。
大移動のさなか分かれ道が現れ、主人公一家は他の人たちとは反対方向へ行くことに。
そこでまた記念写真をパシャリ。もういちいちツッコんではキリがない。なぜ毎度記念写真を撮りたがるのか。何の記念なのか。
移動の道中で水を探すことになる一行。何とか源流を見つけて水を得る。父親はここでも「うん、いける」とアバウトな言葉で水質を保証するし、突然現れた野生のイノシシを乗りこなしていつの間にか殺して捌いたりと、工事のおっちゃんとは思えないほどのサバイバル能力の高さを見せる。
そして2話でも問題のシーンがやってくる。それはサバイバル能力に長けた父親が長いもを掘っているシーン。長いもを掘り当てた先にはなんと不発弾が眠っており、父親はバラバラになって死んでしまう。
もはや何がなんだが分からない。東京に不発弾。長いもを掘った末にあっけなく死ぬ父親。日本沈没とは全く関係ない場所で死んでしまう。
思った通り早速迷走が始まっている。一人ずつ死んでいくパターンだろうか。この作品はいつから無人島に閉じ込められて、一人になるまで殺し合うサバイバルゲームになったのだろうか。(笑)
しかも割とグロい。キャラ絵の不自然な輪郭や動きも相まって気持ち悪さが倍増しており、もう救いようがないほどカオスになっている。
3話の冒頭では、父親を亡くした家族とは思えないほど、寂しさの欠片もない顔で移動を続けている。
父親を亡くしたことに対する悲しみはなく、母親と主人公の間でお互いをただ否定するだけの中身のない言い争いまで起こる。
序盤にして視聴意欲がそがれにそがれている。開いた口が塞がらない。これ以上このアニメを観て何を感じることができて、何を得ることができるのだろうか。ここまできっぱりと意味不明な作品は久しぶりだ。
総評:日本沈没?
© “JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
もはや日本が沈没するアニメではない。
僕が知っている草なぎくんが主演の日本沈没は、日本が徐々に災害によって壊滅に追い込まれて、草なぎくんが愛する恋人を残して地球を救うために命を投げ出す、というあまりに壮絶で壮大な人間ドラマがある。
このアニメはどうだろうか。もはや「日本沈没」という作品に忠実だったのは1話の冒頭だけだ。
原作の流れを無視してストーリーが明後日の方向に進み、オリジナリティがあまりに多すぎて別の作品のように感じる。
そもそも日本沈没がお話の中心になっていない。冒頭の地震以降何度か余震があったりはするが、日本沈没とは関係ないところで関係ないものが原因で父親は死に、連れの女性も毒ガスによって死ぬ。
何の過程も感慨もなく人が死んでいくだけでも胸糞が悪いのに、それを歯牙にもかけずに前を向く家族。父親が死んでも悲しまないのに、なぜか連れの女性が死んだときは泣く主人公。
食料を補給するために入ったスーパーでは、店主のおじいちゃんにまで理由もなく弓矢で命を狙われる始末。本格的にただの無人島サバイバルアニメになっている。(笑)
店主の車で移動する道中にいた外国人は変な宗教団体の一味で、一行はまんまと引っかかって取り込まれそうになる。緊急時なのに宗教団体が通常通り活動している違和感。
さらには衣食住にも恵まれ、壮絶な逃避行から一転、平和な日常の暮らしを手に入れる。一体何が起きているのか。
全く口を利かなかった主人公の先輩は、いつの間にか明るさを取り戻している。母親のことを思い出したり、仕事をする楽しさを感じたりするシーンはあるにはあるが、あまりにあっさりだ。
それまで主人公が必死に会話を試みるも、一言で交わされてダンマリを決め込んでいた先輩が、急に明るく前向きになる違和感。ついにはパーティーでDJを披露している。(笑)
緊急時なのに踊り狂う人々。もはや狂気の沙汰。日本が傾いていて富士山がいつ噴火するかもわからないと脅しておいて、のんきに宗教団体につかまって、大麻を吸ってハイになってパーティーに興じている。
パーティーに興じた挙句、始祖がお風呂場で行為を…もうはちゃめちゃで真面目に説明するのも馬鹿らしくなってくる。
これ以上分かりやすく迷走しているアニメはそうそうお目にかかれない。(笑)
ツッコミどころが湯水のようにあふれ出てくる。評価のしようがないほどあまりに酷すぎる作品だ。
脚本は一体何を考えて仕事をしていたのか。湯浅監督はこの脚本を読んで何も思わなかったのか。まるで構想段階の脚本が素通りしてしまったかのようなずさんさだ。
1話で離ればなれになった家族は再会し、膨らませがいのある一番のストーリーが早くも消える。災害に負けず力強く生きる人間の姿。醜く争う人間の姿。困難なことがあっても前を向く人間の美しさ。
突然平和な日常が壊れ、当たり前だったことが当たり前ではなくなる。そんな熾烈な環境の変化による戸惑いや、家族がいない寂しさ、悲しさを乗り越えて一歩を踏み出す勇気。
そんなものは一切ない。テーマがそもそもない。ゴールのないマラソン。地図のない旅。指針がないからストーリーはブレにブレて収集がつかなくなっている。
最後だけは「どんなに辛いことがあっても前を向くことの大切さ」を伝えるような締めくくりになっていて、一応はハッピーエンドになっている。
綺麗な終わり方になっているからこそ、なおさら途中のスーパーマーケットや宗教団体の下りは蛇足だったし、「明日への勇気」が作品通してのテーマだとは到底思えない。
だが「終わり良ければ全て良し」とまでは行かないまでも、新しい場所でそれぞれの夢をかなえたクライマックスは、それまでの苦労が報われる瞬間でもあり、それまでの鬱憤が晴れるような気持の良い終わり方だった。
それだけに、序盤から中盤にかけてのツッコミどころ満載の展開がなければ、もっと見栄えの良い作品になっていたことだろう。
雑感:低予算
© “JAPAN SINKS : 2020”Project Partners
ネットフリックスオリジナルアニメなのに低予算ぶりが際立つアニメだった。
キャラクターの輪郭や顔のパーツは不自然に歪み、脚本を務める吉高さんはアニメというより、どちらかというと実写ドラマを中心に活動をしているお方らしい。
アニメにそれほど通じていないとしてもあまりに酷い。某ユーチューバーも動画で紹介していた通り、日本よりも脚本が沈没してしまっている。
湯浅監督がトップにいて、なぜこんな作品になってしまったのか。劇場版との両立で納期に負われた挙句、脚本を練り上げる時間すら取れなかったのか。
どんな台所事情だったかは想像することしかできない。湯浅監督だったらこんなアニメが世に出ることを良しとしないはず。何かがおかしい。制作陣のことが心配になる時点でおかしい。
1話で予想した通り尺を持て余して迷走してしまった作品だった。日本が沈没するという最大級の「困難」がありながら、それに立ち向かっていく「勇気」や「挫折」、「葛藤」などが存在せずに、薄っぺらいキャラによる薄っぺらい人間ドラマしかなかった。
命の扱われ方も無人島サバイバルアニメのような軽さで、1人ずつ退場していく展開も予想通りで、関係が薄いから当然感動もできなかった。
評判通りの酷いアニメだった。時間を持て余している人にはオススメだ。