(5点)
高校生のユウと親友ハルは、幼なじみのコトナを巡る事件をきっかけに、2つの世界を行き来することに・・・。大事な人の命の危機に、ユウとハルに突きつけられた<究極の選択>。
果たして二人の決断は―。
<命>を選べ。映画「二ノ国」公式サイト
2つの世界の繋がりを描いたファンタジー×青春アニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (5点) |
完走難易度 | 超難しい |
原作は日野晃博さん。
監督は百瀬義行さん。
制作はオー・エル・エム。
二ノ国
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
映画のために作られたオリジナルアニメーションだ。
現実とファンタジー世界。2つの世界を行き来する主人公たちの愛と勇気の物語。
前回レビューした「日本沈没」同様、こちらも視聴前からバイアスがかかった状態。
各媒体で良くない噂を何度も聞いており、期待値はそれほど高くない状態から観始めている。
そしてちょうど序盤戦が観終わったくらいだが、某Youtuberが「全員馬鹿」と言っていた意味がよーく分かった。(笑)
主役となるのは3人の高校生。車いすの男の子とバスケ部の男の子。そしてクラスメイトの女の子。
彼らの日常が突然壊れてしまうところからストーリーは始まる。
女の子が通り魔に襲われ、それを助けようとした男の子2人が異世界に飛ばされてしまう。
まずは冒頭のそのシーンが問題だらけ。
通り魔に襲われた女の子は車いすの友達に「助けに来て」と電話をかける。その友達は母親に車を出してもらうのだが、果たして車いすの男性が現場に急行したとして何ができるのだろうか。
急いで現場に向かおうとする男の子だが、そもそも場所が分からない。場所が分からないはずなのに「ここら辺で」と降りた先に、ちょうど女の子がいるというご都合展開。
到着したはいいものの、女の子は通り魔にナイフで刺されてしまう。そこに遅れて登場するもう一人の男の子。
彼はあろうことか、ナイフが刺さった状態の女の子を持ち上げて病院に連れて行こうとする。車いすの男の子の制止も振り切って。
どうやら彼には救急車を呼ぶという選択肢がないらしい。(笑)
傷が開いてしまうことくらい高校生だったら分かっていてほしいものだが、気が動転した男の子は、女の子をお姫様抱っこして病院へ向かおうとする。
さらに今度は慌てて車道に飛び出してしまう。ちなみに抱えている女の子は彼女だ。その瀕死の彼女を抱えた状態で、慌てて車道に飛び出す男の子。当然車の往来は激しく、危うくトラックに轢かれそうになってしまう。
その刹那、歩道から飛び出してくる車いすの男の子。もうめちゃくちゃだ。
なぜ車いすに乗った状態でトラックに突っ込んでいくのか。その行動に一体何の意味があるのか。
そして3人一緒にトラックに轢かれたと思いきや、ファンタジーな異世界に飛ばされてしまうという展開になっている。
早速「なんだこりゃ」という感じでストーリーが始まっている。
まずはキャラクターの思考から明らかに常識が欠けている。百歩譲って救急車を呼ばないまではいいとしても、持ち上げて揺らした上に車道に飛び出していくなんて、脳みそが足りないにも程がある。
車いすの男の子も「なんとかしたい」という必死な気持ちは伝わるが、それが明後日の方向に作用している。
助けに行くなら分かるが、一緒にトラックに巻き込まれに行ったようにしか見えず、ヒロイン以外はトンチンカンにしか映っていない。
序盤にして早くも首が30度くらい傾いた状態だが、ここからさらに何度傾くか逆に楽しみになる序盤の展開だ。
異世界
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
異世界に飛ばされた2人は女の子を探すために行動し、彼女とそっくりな王女がいる城へともぐりこむ。
しかし彼女は2人が知るクラスメイトではなく、正真正銘異世界の姫様だとわかる。
ベッドでうなされる姫様には、通り魔に刺された場所と同じ場所に不気味なナイフが刺さっている。おそらくは「現実の女の子と姫様はリンクしている」ということだろう。
同一人物ではないが一心同体。現実で負った怪我は異世界の姫様も負うといった感じだろう。
その後いろいろあって、敵国のスパイだと疑われた2人は命を狙われるわけだが、「命の危険」が異世界ジャンプのトリガーだと気づいた2人は再び現実へと帰る。
だがあまりにすんなりジャンプしていることが少し気になる。
確かに姫様と車いすの男の子が湖畔で話すシーンで、姫様が「一の国」というもう一つの繋がった世界について話すシーンが直前にあったものの、「ジャンプ」について詳しく語るシーンはない。
何の準備も説明もなくいきなりジャンプを試みる。トリガーが命の危険など、いつそんな描写があっただろうか。失敗したら死ぬかもしれないのに。
そもそも「現実に」ジャンプできるかできないかについての説明も省かれている。
そこはもっとキャラ同士が深く掘り下げるところだが、あっけなく「ジャンプしよう」と言ってあっさりジャンプが成功している。
緊張感の欠片もない。命を捨てるかもしれない恐怖も当然あるだろうし、失敗して王様に捕らえられて処刑だってあり得る。
そんな心配を一切しないで思いつきのようなタイミングで大胆な行動に出る。
膨らませたら確実に面白くなるようなシーンが省略され、どんどんストーリーが先に進んでいくのには違和感しかない。
現実と異世界の人間の命がリンクしているという事実に男の子が気づくシーンでも、異世界で見たゴブリンのような異世界モンスターと、現実で事故に遭って死んだとされる3人の人間の顔がそっくりだということに気づくわけなのだが、そもそも人間とゴブリンじゃ種族が違うし、人間と人間が似ているなら分かるが、なぜゴブリンの顔と人間の顔が似てるとわかるのか、というか人間の写真を見てもゴブリンと似ているとは到底思えないのだが、車いすの男の子はそこを手掛かりの1つにして「現実と異世界のリンク」という仮説を立てる。
「仮説」というか、もうほぼ現実として「事実」として飲み込んでもいい段階だろう。中盤で仮設だなんだと停滞していてはあまりに遅い。
なぜなら異世界の景色を見て、実際にそこで異種族のモンスターと会話をして食べ物を食べて、姫様の呪いを解いて、剣闘試合に出て、また現実世界へとジャンプして…とこれだけの体験をしておいて、バスケ部の彼氏の方はまだ現実を受け入れようとしない。
もうお話も中盤に差し掛かろうというのに、「あれは夢だ」「今こうして彼女が元気にしていることが全てだ」と現実逃避を続けている。おかげで一向にストーリーが進んでいかない。
もう異世界と現実がリンクしていることくらいその彼氏を除けば、視聴者含めて全員が理解している。姫様に刺さったナイフの箇所を見れば誰でもなんとなく想像はつく。
その仮説についてうだうだと中盤になっても親友2人が言い争いしているのは明らかにペースが遅い。起承転結もあったもんじゃない。
挙句の果てには、親友2人の仮説が真っ向からぶつかって、さらにめんどくさいことになっている。
バスケ部の彼氏は車いすの男の子とは反対に「異世界の姫を助けたから、現実の彼女が命の危険にさらされている」と主張する。
一緒に力を合わせて幼馴染を助けるために行動を起こさなければいけないのに、なぜかバスケ部は親友に真っ向から対立し、彼女のためと突っ走って「姫様を殺す」とまで言い放つ。やはり知能が低いとしか思えない。
本気で彼女のことを思うなら、瀕死の彼女を担いで病院へ行こうとはしない。慌てて車道に出ることもない。悪性腫瘍で余命3か月を宣告された彼女のことを第一に考えずに、現実を直視せずに、親友の意見に耳を貸さずに真っ向から対立することも絶対にしない。
一見親友同士の葛藤にも見えるが、これはバスケ部男子の身勝手な行動から生まれた不必要な葛藤で、物語が一向に進まないうえにイライラするというおまけまでくっついている。
シチュエーション先行
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
中盤以降の展開はシチュエーションが先行してしまっている感が否めない。
対立した2人は二ノ国に再び飛ばされるも、今度はそれぞれ対立する敵国に飛ばされ、敵として戦うことになってしまう。
これがどうにもシチュエーションありきになっているようにしか見えない。
「親友同士が対立する」というシチュエーションを作ることだけに集中した結果、その過程がおろそかになっている。
というのも、それぞれ敵国の本拠地に飛ばされるわけなのだが、バスケ部の男の子は敵の兵長的なキャラの口車に乗せられ、次のシーンでは馬にまたがり、姫を討つための兵士として人を殺す覚悟まで固めている。
さっきまで現実逃避していた人間が異世界に来た途端、別人のように豹変し、悪の軍団の一味になって「人を殺す」とか言っている。笑うしかない。
さらに車いすの男の子にしても、再び姫がいる城で捕らえられ王様から尋問を受けるが、最終的には自分が無害であることを受け入れてもらい、あまつさえ姫様の守護者に任命され、親友を討つことを命じられる。
前回のトラベルで全く信用されていなかった人間が、姫様の近くに置かれ、さらには守護者として戦えと命じられる。
大事な姫の命を、先のシーンで裏切り者として捕えようとしていた人間に任せるだろうか。剣闘試合でそこそこの剣技しか見せなかったような輩に、姫様の命を預けるだろうか。
いろいろツッコミどころがありまくりなのに、トントン拍子で進むもんだから「親友同士が姫様を救うために戦う」というシチューエーションに無理やり繋げているようにしか見えない。
直前の現実での意見の対立にしてもそうだ。誰の気持ちを優先するべきかというところが無視され、どうしても描きたいシチュエーションばかりに目が行き、キャラクターの気持ちがないがしろになっている。
大切な彼女のための行動が親友と対立することだろうか。余命を宣告された彼女を救うためには自分に何ができるだろう、何をしてあげるべきだろう、と考えるのが彼氏の役目ではないのだろうか。
現実の彼女を救うために異世界の「彼女」を殺すことが、本当に最善の手段だと思っているのだろうか。
異世界で剣を取って戦い、「姫を殺せ」と命じているさなかにも、バスケ部男子は「これは夢だ」とまだ現実逃避をしている。
一体いつになったら現実を飲み込むのか。彼氏としても人間としてもあまりに頼りない。
キャラクターの気持ちが全く読み取れないし、当然感情移入もできない。道を踏み外してもう後戻りはできない状態になっている。
ちょ、ま
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
クライマックスでどんでん返しがある。
味方に内通者がいたことが明らかになり、車いすの男の子がそれを見破り、その内通者が本性を現す。
どんでん返しは作品を盛り上げるには必要不可欠だ。だがそのどんでん返しが全くしっくりこない、という悲劇が起こっている。
まず全く内通者の匂わせがなかったこと。ミステリーアニメであればどんでん返しまでに、いくつかの伏線として内通者がいることの匂わせを仕込ませる。
そうすることで、「もしや」と観ている側が勘付くことができるし、その黒幕を探すために思考をめぐらすという楽しみも生まれる。
だがこのアニメでは突然内通者が現れる。車いす男子が「そうか、わかったぞ!」というお決まりのセリフで内通者がいることに気づくのだが、観ている側からすれば「え、何が?」という「?」マークしか浮かばない。
さらに衝撃の事実に畳みかけるように、どんどん聞き覚えのない厨二単語がキャラクターの口から発せられて、思わず「ちょ、ま」と言いたくなるような急展開を見せる。
内通者がいただけでも驚きなのに、彼の目的やら錬金術やらセイオディアやら王様の兄やら、初めて聞くような設定や横文字が続々と登場し、「これはギャグアニメか?」と思いたくなるほど突飛な展開を見せる。
ツッコミ役がいたら「横文字が多すぎてわからん」「中二病アニメか」とツッコミが入ってもおかしくないようなシーンを、至って真面目にやっているのだから、もう笑うしかない。
あまりに急すぎる展開についていけない。さっきまで親友同士で戦っていたシーンは一体何だったのか。
総評:薄い
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
中身のない空っぽのファンタジーアニメ映画だった。
この映画を楽しみにして、お金を払って劇場に足を運んだ人が本当に不憫でならない。
序盤から異世界ありきのシチュエーションで物語が進み、最初から最後まで監督や脚本がやりたいことをとにかく詰め込んだような作品だった。
車いすの男の子が意味もなく車道に飛び込んだのも、親友同士で異世界に飛ばすためだし、異世界を行き来させたいから細かいやり取りを省くし、親友同士で戦わせたいから余命で苦しむ女の子の気持ちを思い切り無視する。
うっすうすにも程がある。キャラクターの感情が迷子になるという以前に、完全に無視されている。行動を起こさせるための大元の気持ちが無視されれば当然、観ている側からすれば突飛で理解が追い付かない行動になる。
キャラの感情が無視されるから当然、重厚な人間ドラマなど生まれるはずもない。そこがエンターテイメントの肝になる部分なのに、感情の波が一切動かないのも逆に凄いことだ。
力を合わせて幼馴染を守ろうとするところでなぜか対立するわ、終盤になっても「これは夢だ」と現実を一向に受け入れないでイライラするわ、伏線もなしに突然スパイが本性を表すわで、もう何がしたくて何を見せたいアニメかも分からなくなっている。
現実とは違うもう一つの繋がった世界。お互いの世界はリンクしていて命を共有している。設定は面白い。1人の女の子をめぐる戦いというのも見ごたえがある。
だがそれを制作陣のトップにおわす方々が、1つのストーリーとしてしっかりとした流れを作ることができなかったことで、こういう駄作が生まれてしまった。
雑感:駄作
©2019 映画「二ノ国」製作委員会
とんでもない作品だった。
メインの3人は普段は俳優として活躍している方々。声優のポジションを奪うだけの何かを見せて欲しかったところだが、特に俳優を起用する意味は見えなかった。
アニメ映画なのに声優を使わない理由は何なのか。スポンサー絡みなのは間違いないが、いい加減声優としての実力もないのに、声優として起用するのはやめてほしい。
世間で駄作と言われる理由を身をもって知った。どうしてこの脚本で映画化しようと思えたのか。
バトルの作画は素晴らしい出来で、躍動感のある動きが印象的だったし、伝説の剣で悪を断つというラストもありきたりだが良かったと思う。
だが過程が適当すぎて、クライマックスが全く盛り上がらずに終わってしまった。設定や世界観は面白いだけに残念だ。
お金は十分あったのだから、後はスタッフやキャストの配役と詰め作業さえ間違わなければ。スタジオジブリが制作協力をしたというが、恐らく脚本に口出しはしなかったのだろう。
作画やキャラの動きからジブリっぽさがにじみ出ているくらいで、もう少し首を突っ込んでくれればこんなことには…
オススメはしないが興味がある人は一度観て欲しい。