2020年

【2020アニメ】「推しが武道館いってくれたら死ぬ」アニメレビュー





(91点)全12話

岡山県在住のえりぴよは、マイナー地下アイドル『ChamJam』のメンバー・舞菜に人生を捧げている熱狂的なオタク。えりぴよが身を包むのは高校時代の赤ジャージ。えりぴよが振り回すのはサーモンピンクのキンブレ。えりぴよが推すのは舞菜ただ一人。収入の全てを推しに貢ぎ、24時間推しのことを想い、声の限りを尽くして推しの名前を叫ぶその姿はオタク仲間の間で伝説と呼ばれ、誰もが一目置く存在となっていた。『いつか舞菜が武道館のステージに立ってくれたなら…死んでもいい!』そう断言する伝説の女・えりぴよのドルオタ活動は、アイドルもオタクも巻き込んで今日も続く…!TVアニメ「推しが武道館行ってくれたら死ぬ」公式サイト




推しに全てを捧げる熱狂的なドルオタを描いたアイドルコメディ

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (91点)
完走難易度 超易しい

原作は平尾アウリ先生。

監督は山本裕介さん。

制作はエイトビット。

ドルオタ

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

主人公は熱狂的なドルオタ。

推しの女の子に全財産をつぎ込み、ライブでも最前列、チェキ会でも最前列、服装は常に高校時代のジャージというまさにオタク中のオタク。(笑)

そんな主人公と推しの地下アイドル・舞菜の絆を描いた物語。

アイドルが成り上がっていくアニメは数あれど、オタク視点で進むのはかなり珍しいのではないだろうか。

推しを地球上の何よりも大切に想い、人生をかけ、お金をかけ、時間をかけて、文字通り全てを推しに捧げる。現実にここまでしている人がいたらドン引きするレベルで愛を注いでいる。(笑)

出会いのシーンで、自分にだけ笑顔を向けて手を振ってくれたときに一目ぼれをして、グループの中で一番人気がなくても、握手会で塩対応され続けても、一途に応援し続ける。

他の誰かのために、そこまでの熱意を注げること自体ものすごく尊いことだ。この孤独が当たり前の時代にあって、アイドルとはいえ、特定の誰かに入れ込み、人生を捧げる。主人公は開始時点で好感度がMAXまで振り切っているようなキャラクターだ。

だから自ずと、一緒になって舞菜を応援できる。舞菜はグループ内で一番人気がないという境遇と、引っ込み思案というキャラクターもあって、グループと共にこれからどう成長していくのかという楽しみもある。

1話の掴みとしてはこれ以上ない程面白い。設定や世界観の斬新さ、自然と感情移入してしまう主人公と売れないアイドル。

1話を観ただけでも面白いことが分かる作品だ。

すれ違い

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

握手会やライブなどのステージに足しげく通い、推しのことだけを考えて生活をする。

自分の存在をアピールしようと熱い気持ちを伝えようとするも、舞菜にはなかなか響かない。

彼女は引っ込み思案。もちろん応援してくれているえりぴよのことが好きだが、それを面と向かって伝えることができない。

故にえりぴよは自分が嫌われていると勘違いしてしまい、そこからいろんなすれ違いによって、距離がなかなか縮まらない。

付かず離れずを繰り返すじれったさ。えりぴよレベルに足しげく通っていれば認知を貰えるのも時間の問題だし、会話をすることも容易に思える。

しかもお互いに相手のことを大切に想っている。正直に気持ちを伝えるのが難しいから、遠回しに「手紙が欲しい」ことを察してもらおうと策を巡らしたりもする。

舞菜は不器用なりに、なんとかえりぴよに感謝の思いを伝えようとする。しかし運命がそれを阻む。一番のファンなのに距離は遠いまま。

そこが面白い。欲しいものは簡単に手には入らない。ファンとアイドル。両者には確実に、飛び越えられない大きな隔たりがある。

いくら応援しようと、いくら一番のファンを名乗ろうと、それは一方的な「片思い」でしかない。

一生懸命応援したところで、CDを100枚買ったところで、推しの好みのタイプに合わせたところで、お近づきになれるわけでも、文通できるようになるわけでも、認知を確実にもらえるわけでもない。

常に大勢の中の1人。それがドルオタの宿命というもの。そこをアニメとして上手く捉えてストーリーにしている。

いくら人生をかけて応援しようとも、単推しがえりぴよしかいないとしても、舞菜とえりぴよの関係がファンとアイドルであることは変わらない。

だから遠くから見守ったり、CDやグッズを買ったりすることしかできない。そうとしか愛を伝えることができない。そのじれったさが面白い。

えりぴよはいつも通り、舞菜に塩対応を食らった後のシーンで、オタク仲間にこうも言っている。

「相手が人間って怖いよね。絶対に好きか嫌いかで判断されるってことじゃんね。それってすごーく怖くね?」

ファンもアイドルも当然同じ「感情」を持つ人間。好きか嫌いかで物事を判断する。自分たちは一生懸命応援していたとしても、それは一方的な押し付けに過ぎず、相手は迷惑に思っているかもしれない。

アイドルにお熱な人なら一度は頭をよぎる考えかもしれない。自分の愛はどこまで行っても片道切符。アイドルを好きになることにも覚悟が求められる。

一線を越えそうになると、運命の修復力で何度も阻まれる。お互いの思いが通じる瞬間は来るのか。中盤以降もますます見逃せない。

青春

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

このアニメに登場するキャラクターはアイドル以外フリーターが多い。

フリーターという縛られない立場で働きながらアイドルを思う存分応援する。それは立派な青春だ。

青春は何も学生の特権ではない。どこかで聞きかじった言葉だが、大人になっても青春は出来る。

自分がやりたいことを精一杯やる。そうやって頑張っている人は、現実でもアニメのキャラクターでも自然と応援したくなる。

主人公のえりぴよは一人のアイドルのために、いろいろなものを犠牲にしている。そして何を犠牲にしたとしても、それを後悔する素振りさえ見せず、推しの前では満面の笑みでいつも楽しそうに愛を叫んでいる。

こういう青春の形も珍しい。夢や目標とも少し違う。なりたい自分になろうとするというよりも、誰かがなりたい自分に慣れるように精一杯応援する。

立場は違えど、他人のために頑張る人は美しい。自分が一番。自分のことで精一杯。自分も含めてほとんどの人がそうではないだろうか。

それなのにどういう形であれ、他人をまず第一に考えられること。それ自体がとてつもなく尊いことで、素晴らしいことで、称賛されるべきことで、十分誇れることだ。

大人になっても、安定した職業に就いていなくても、人生を謳歌する手段はある。えりぴよの人生をこれでもかと謳歌する姿に勇気を貰える。

推しへの愛

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

推しへの愛に溢れた作品でもある。

えりぴよと舞菜。メインとなる2人の関係に留まらず、グループの他のメンバーと他のファンとの馴れ初めや交流、推しへの愛を語る場などがあり、そこかしこに「愛」が溢れている。

推しのことでまるで自分のことのように喜怒哀楽し、売れなかった時代から応援し続けて、他のグループに移籍した後もずっと応援し続けるファンがいて、本当の夫婦になることを夢見るガチ恋勢もいる。

全ての人が自分の推しへの愛をさらけ出す。その気持ちを共有したり、「他人の推しには興味がない」とスルーしたり。

平和な世界だ。誰かを蹴落としてのし上がろうとか、不正をしてやろうとか、誰かの推しを馬鹿にしたりとか、アイドルにもファンの間にもそんなことは一切存在しない。

推しが違くても、その人の推しがピンチなら助太刀するし、落ち込んでたら励ますし、舞菜の仲間も、舞菜の人気がないことを気にかけて、優しく包み込むように接している。

心がフワフワと浮くような優しい世界。作画や背景の色合いも含めて、これほど優しさに溢れた作品もそうはない。

純粋にアイドルを愛する者たちだけの集い。それがこの推し武道という作品だ。

距離感

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

アイドルとの距離感をしっかり守っている作品だ。

アイドルアニメといえばアイドルの成長を描くのが王道で、そのほかにはアイドルや有名人の美少女とお知り合いになり、どんどん親密になっていく展開も鉄板だ。

しかし、このアニメではアイドルとファンは一線引かれている。10話でもあるがアイドルは「友達」ではない。

握手会やライブで頻繁に会おうとも、万が一プライベートでエンカウントしようとも、そこから関係を深めていくことはない。

どこまで行っても平行線。それがアイドルと一般人との関係だ。

そこをリアルに描いているからストーリーが生まれる。「関係が進展しない」という障害があるから「愛」が生まれる。

えりぴよは地球上の誰よりも舞菜を愛し、人生の全てを捧げている。握手会やライブにも毎回当然のように行き、プライベートでも何回か会っている。

しかしそこで欲を出すことをしない。自分が一般人であることを弁え、自分から距離を置いている。舞菜もそうだ。

他のキャラクターにしてもそうで、ガチ恋する身の程知らずはいるが、いつでも会えることをいいことに、我欲に走る無謀な人間は一人もいない。

ストーカーだのスキャンダルだのと無縁だから、ストーリーは「夢」と「愛」に真っすぐ一途で気持ちが良いし、心が晴れやかになるような、癒されるようなフワフワ宙に浮くようなアニメだ。

総評:愛

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

これほど「愛」に満ちた作品は他にない。そう思い込んでしまうほど優しさに溢れた作品だ。

愛というのは当然言葉にしなければ伝わらないことが多い。いくら行動で愛を示しても意図が伝わらないと勘違いや、そもそも気づいてもらえないという事態にもなる。

だがこのアニメは違う。愛を「言葉」にして伝える。思いの丈を全て言葉にして相手に伝える。

えりぴよは舞菜への愛を隠さずに全て伝える。CD1枚5秒を何十枚も「積んで」時間の許す限り、思いつく限りの「愛」を全て推しにぶつける。

好き。ありがとう。頑張れ。舞菜への感謝や賛辞を余すことなく、思いつく限りのボキャブラリーと思いつく限りのスケールで言葉にする。

包み隠すことなく全てを言葉にするから清々しい。ためらいも恥じらいもなく、時も場所も選ばずにひたすらに愛を叫び続ける。

誰か一人を必死になって応援できるということ。それだけでも本当に尊いことだ。

たとえ就職せずに延々とパンをひっくり返す作業をしていたとしても、その「愛」に満ちた生き様は本当に美しい。(自分もフリーターなので、親戚が集まったときの気まずさや就職している友達への引け目は痛いほどよーくわかるw)

少し間違うと、「アイドルのファン」は「気持ち悪いオタク」というイメージが付いて回る。世間では「アイドルオタク」と聞いて、あんまり良いイメージを持たれることはないだろう。

だがこのアニメのオタクたちはみな紳士で優しさに溢れ、常に節度ある行動をし、推しへの揺るぎない愛を持っている。

一緒にグループを大きくして、いずれは夢の「武道館」へ。大きな大きな果てしない目標があり、そこに向けてローカルアイドルとファンが一丸となって頑張る。そのワンチームがさらなるドラマを生んでいる。

ファン目線はもちろん、アイドル目線でもストーリーは動いていく。ライバルの存在。見せつけられる自分たちの現状。武道館という果てしない夢。

だが彼女たちは諦めない。大きな壁に立ち向かい、葛藤し、乗り越えていく。普遍的なアイドルアニメの「良いとこどり」もしてしまっている作品だ。

アイドル目線とファン目線どちらでも楽しめるという画期的な作品だ。12話が本当にあっという間に感じた。

これほど心が浄化されるアニメもないだろう。好きを正直に相手に伝えて、応援しているという気持ちを精一杯、不器用ながらも言葉にして伝える。

捻りはあまりないが真っすぐなストーリーが心に刺さる。アイドルとファンが一体となり武道館を目指す。ド直球勝負。

この作品が素晴らしい作品なのはPVを見た時点で分かっていたことだが、期待通りの素晴らしい作品だ。

作画もほとんど手抜きは見られない。一番大変なダンスもCGを一切使わずに最後まで手書きで描かれている。多くの時間をかけて「愛」を注がれて作られた作品であることは一目瞭然だ。

えりぴよの声を担当したファイルーズあいさんは、かの有名な筋肉アニメでステップアップされたお方だが、熱狂的なアイドルオタクの役もこれ以上ない程ハマっていた。(笑)

大声を出すことが多い役どころだったが、彼女の変態性が役にも大いに反映され、えりぴよと言う名のアイドルオタクを越えた一人の変態を生み出していた。(笑)

舞菜とえりぴよの組み合わせをもっと見ていたい。武道館に行って欲しい。素直に作品の今後の展開が気になってしまう。2期に期待大だ。

雑感:昔

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

自分も昔は一アイドルオタクだった。そう、それはちょうど11年ほど前に、とある巨大なアイドルグループがアイドル界のみならず、日本を席巻していた時代…(笑)

同郷の子を必死に応援していた。毎週の番組を欠かさずチェックし、曲も全部聞き、ライブのDVDも買う。握手会にはついぞ行かなかったが、オタ活っぽいことは網羅していた。

その頃を思い出してしまった。オタクになる前は「アイドルなんて…所詮現実逃避だろ」くらいにしか思っていなかった。

しかし自分が実際にオタクになると分かる。アイドルは逃げ道じゃない。癒しの泉なんだと。(笑)

確かに、メンタル的に追い込まれていると余計にハマってしまうこともあるだろうが、アイドルが常日頃どれだけ頑張っているのか、それを思うと自然と応援したい気持ちになっている。

ダンスや歌のレッスンに、アイドルとしての24時間の立ち振る舞い、体型維持、体力向上、ライブ、握手会、etc…

活動の幅が広がれば広がるほど多忙を極める。アイドルの世界は地獄だ。それを考えると同じ人間として応援せずにはいられない。

えりぴよが言うところの「自分の全て」という表現は、多くの人にとってそうなのかもしれない。

「推しが武道館に行ってくれたら死ぬ」

このアニメを観れば、えりぴよの推しへの愛が嘘偽りではないとはっきりと分かるはずだ。

ぜひとも全てのアニメファンに観て欲しい作品だ。




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