(83点)全12話
完全無欠のクール男
クールでスタイリッシュな主人公の学園生活を描いた学園コメディ。
原作は佐野菜見さん。
監督は高松信司さん。
制作はスタジオディーン。
スタイリッシュ
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
主人公の坂本はとにかくスタイリッシュ&クール。
いついかなる瞬間を切り取っても、彼はポーカーフェイスを崩さず、どんな局面もクールにやり過ごす。
恐らく彼ほどクールという言葉が合似合う人間はいない。
それほど存在が際立っており、誰もが彼の一挙手一投足から目が離せない。
私たち視聴者も彼の人間性に引きこまれる。
黒板消しを仕掛けられても、個室トイレで用を足しているときに水をぶっ掛けられても、教室の机を窓から放り投げられても。
彼は表情一つ変えずに、ユーモアを交えながら華麗に対処していく。
次は何をしてくれるのか、トラブルに巻き込まれたときにどう対処するのか、気づけば彼の行動から目が離せなくなってしまっていることに気づく。
主人公は礼儀・作法はもちろん、身体能力や洞察力にも秀でているが、それを見せびらかすことは絶対にない。
あくまでクールに。冷静に。スマートに。スタイリッシュに。
当然女子からは黄色い声援が飛ぶことになるが、彼はそれに対して何か反応をすることもなく、涼しげな表情で佇む。
男が憧れてしまうという意味では、坂本を超えるキャラは存在しないだろう。
変化
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
彼はただクールなだけの男ではない。
彼は自分を貶めようとする人間ですら、広い心で受け入れて改心させてしまう。
彼のクールさに一度触れれば、悪さをする不良もたちまち真人間に変化する。(笑)
声を荒げるでもなく、暴力に訴えることも決してしない。
言葉と所作だけで他人を変えてしまう様は見ていて痛快極まりなく、沈んだ気持ちが自然と晴れていくような、優しく包み込んでくれるような温かい気持ちにさせてくれる。
彼の人気に対して妬む者が次から次へと現れるが、彼は一切動揺せず、逃げも隠れもせず勝負を引き受け、気づいたら全員が彼の土俵に立っていることにすら気づかないまま改心していく。
彼の一手先も二手先も見透かしたような行動によって誰もが自分の限界を知り、気づいたら彼と行動を共にしている。
このアニメはまさに坂本の独壇場。
彼のために用意されたステージだ。
これほど主人公と脇役の差が顕著に出るアニメというのもなかなかない。
それほど彼は別の次元にいる。
ギャグ
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
坂本の凄さばかりが目立つ作品だが、一応ジャンルとしてはコメディ・ギャグアニメだ。
彼のクールな行動をカッコ良いと見惚れさせるためだけではなく、それを上手く笑いに変換している点も素晴らしい。
彼のとんちの効いたアイディアはそれだけで笑いになってしまう。
何故そんなアイテムを持っているのか、なぜ即座にそんなアイディアが思いつくのか、あり得なくて可笑しくてつい笑ってしまう。
強烈な個性を持ったキャラが一人いるだけで画面が持ってしまう。
もちろん演出で見せることも忘れていない。
彼のカッコ良さが引き立つカメラワークや音楽で、坂本が輝ける最高の舞台をセッティング。
キャラ同士のやり取りの軽快なテンポも心地よく、無駄な間を挟まずに笑いが押し寄せる。
坂本の際立った個性だけで押し切ることなく、サブキャラとうまく絡めながら、やり取りのテンポや改心でしっかりとクールにまとめる。
脚本・演出もクールに決まっていた。
ギャグ路線から外れる
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
物語の中盤でこのアニメの世界観はガラリと変わる。
坂本のクールさは相変わらずだが、ギャグよりも人情ドラマ寄りになっていく。
いじめられている同級生を救ったり、不良の上級生のために二人羽織でレストランへ行ったり。
坂本のクールさで笑いを取るというより、彼の行動がもたらす変化についてフォーカスされることになる。
確かにギャグ一辺倒では、いくら坂本の個性が秀でているとはいえ、視聴者に飽きられてしまうことになる。
実際に原作の漫画は読者に飽きられてしまうという編集側の見通しにより、売れ行き好調であったにも関わらず、4巻で打ち切りとなっている。
飽きられないための人情噺。
確かにこのアニメの世界観にもピッタリ合っていたし、笑わせる場面と泣かせる場面をきっちり使いこなしていた。
しかし、幾分笑いの要素が弱すぎた感は否めない。
前半の怒涛の笑いと比べると、中盤から終盤にかけてトーンダウンした印象は否めず、作品の根幹が揺らいでしまっていた。
私たち視聴者の目が慣れてしまったことも原因で、序盤こそ坂本のアイディアに驚き笑い、感動さえ覚えたが、中盤に差し掛かる頃にはだいぶ飽きが来てしまっていた。
そこで人情噺を差し込むことで新鮮な感情を得たが、違うベクトルの笑いがあっても面白かったと思う。
坂本のカッコよさは十分堪能できたが、何か物足りないと感じてしまうのは、途中から「坂本じゃなくてもよくない?」と思わざるを得ないほど、坂本の存在感が薄くなっていたことにも起因する。
人情噺
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
作品の根幹が揺らいでいたとはいえ、人情噺は感情を揺さぶる素晴らしいストーリーになっていた。
第11話Aパートの「ぬくもりはいらない」
上級生の不良で8823(ハヤブサ)という先輩がいる。
彼の家は貧しく、母親もいない。
ある日、父親がハヤブサに新しい母親が出来そうなことを報告し、後日食事の席に同席することに。
しかしフランス料理店でのマナーなど知る由もない彼は、坂本を頼り、彼と二人羽織することで何とかその場をしのごうとする。
なんとか食事を済ませて帰路につくハヤブサと坂本だったが、彼の母親になるはずの女性は美人局であることが判明する。
ヤンキーに絡まれている父親を坂本と助けたハヤブサは、父親をおんぶして再び帰路についたというお話。
「ワルそうなあいつが…」というベッタベタな展開ではあるが、彼の印象がガラリと変わった印象的な回だった。
うまく二人羽織で笑いを取りつつ、最後にはハヤブサが家族思いだという描写を入れ込むことでしっかり人情を成立させていた。
少し残念なのは、このストーリーを11話に組み込んだこと。
彼の家族思いな一面が見えて、彼のことをもっと知りたいと思った矢先にはもうクライマックス。
中盤5.6話あたりにこのストーリーを持ってきて、最終回12話までの間に、彼のキャラを深めるようなオリジナルストーリーを入れても良かったかもしれない。
最終回
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
最終回はそれまでなかったシリアス回が突然挟まれる。
坂本のクラスメイトのあつしが、上級生の深瀬という男に焚きつけられ、3年生の卒業式の最中、在校生代表の祝辞を述べている坂本に向かって金属バット片手に襲撃を仕掛ける。
坂本という眩しすぎる輝きに届かないことは分かっていても、簡単に憧れることを許さないプライド。
学生ならではの心情が垣間見えるシリアスシーンで、坂本は公衆の面前でピンチに陥ることになる。
流れとしてはそれまで同様、ピンチになった坂本がするりとピンチを脱するシーンになるものと思っていた。
実際に坂本は、生徒や先生に悟られることのないようスマートに、あつしの力も利用しながらつつがなく祝辞を述べていく。
ここであつしを完全に退ける展開は1話からのお馴染みだが、最終話にして新しい展開を見せる。
2階から落下する友人のあつしを「クール」とは程遠いお尻丸出しの姿で助ける。
それまで全く隙の無かった坂本が初めて恥をさらす。それもとんでもないレベルの。
しかもそれが「友達のために」という坂本の言葉で、坂本が友達想いだという新しい一面も判明する。
友達のためならば「クール」にこだわらず、自分が恥をかくことも厭わないという坂本の優しさ。
最終回としては文句の付けどころはない。
ラストのシーンで「タイトルがなぜ疑問形なのか」という疑問に答えるタイトル回収もあり、一つの作品として非常に綺麗にまとまっていたと言えるだろう。
ただ終始原作の流れを踏襲しており、原作漫画4巻の流れをそのままアニメ12話の構成に持っていけることを考えると、構成難度としてはそれほど高くない。
売れた漫画をそのままアニメ化するだけで満足せずに、ストーリーの流れに手を加えても面白かったと思う。
総評:坂本以外に何か武器が欲しかった
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
涼しげなフェイスでどんなトラブルも、困っている人も動物も、みんな助けてしまう。
見た目・セリフ・行動全てがクールで、男が憧れるカッコ良さが詰まった男の中の男。
しかし主人公の坂本の存在感が大きすぎたために、話の展開が限定されてしまったことがもう一つ満足がいかない理由だ。
世界設定の時点で明らかだが、主人公の個性が強すぎるとサブキャラにスポットを当てにくくなり、話の流れもワンパターンになりがちになる。
主人公ばかりにスポットを当てるとしても限界がある。
いくら坂本が最強で最高にクールだとしても、ツッコミ不在の世界観では、ギャグとして見せるには引き出しが少なすぎる。
もっと笑いをとれる武器があれば、単調になりがちなストーリーに活を入れることができただろう。
売れているギャグアニメというのは、強烈な「個」の上に、さらにいくつもの笑いの引き出しを持っている。
このアニメの場合は、「坂本が華麗な所作で魅せ、周りのクラスメイトがボケ満載の言葉ではやし立てる」という流れが鉄板となっている。
そこに変化を付けられるキャラが一人でもいれば、全く違う展開になったかもしれない。
坂本と同等のクールさを持つキャラだったり、坂本とは真逆の何でも雑に済ませてしまう人だったり。
これらは私の妄想に過ぎないが、他に光る武器があれば打ち切りに合うこともなく、今頃アニメ2期が放送されていたかもしれない。
世界設定の時点で独創的で引き込まれる魅力があり、次はどうやってクールに行動するかという期待感があり、作品としての完成度は高い。
それだけに「今いる場所」で満足してしまったことが非常にもったいない。
打ち切りになったのは2015年でアニメ化は2017年。
2年もあれば、原作とは違う方向性を打ち出す余裕はあったはず。
良い意味でも悪い意味でも、原作通り放送したことは制作陣の怠慢に他ならない。
「アニメ化で原作を盛り上げなければ」というプレッシャーもなく、もっと自由に表現することもできたはずだ。
だが、ボケ不在が原因で一気にしらけるアニメもある中で、坂本という強烈なボケ担当と、ボケにボケを重ねるガヤのコラボがテンポの良い笑いを生み出していて、ギャグアニメとしての評価は高い。
願わくば、坂本のNASA行き発言の真相や、パイを自分の顔に張り付けた真相を知る機会があれば良かったが…
個人的な感想:緑川光
引用元:©佐野菜見・KADOKAWA/坂本ですが?製作委員会
正直、緑川さんの声で坂本はずるい。(笑)
坂本を演じられるのは緑川さん以外存在しない。
クールでスタイリッシュで包み込むような温かみのある声質は、坂本にピッタリハマっていた。
作画を見ても最後まで綺麗にまとまっていたし、お金に比較的余裕があるスタジオディーンに委託できた結果、原作との相乗効果もしっかりもたらしたと言えるだろう。
原作が終了している作品のアニメ化を企画するには、相当な原作パワーがなければ成り立たない。
連載が終了した作品というのは時間が経てば経つほど鮮度は失われて、人々の記憶からも消えていく。
採算が取れると判断できなければ、アニメ化に至ることはない。
調べによると発行部数は累計400万部を越えるほどで、難しい判断だったとは思うが、よくアニメ化まで踏み込んだと思う。
アニメ化がなければ、私はこの作品を知ることはなかっただろう。
面白かったという声が多数聞かれる今作だが、アニメ化は失敗に終わっている。
1~5巻までのDVD&Blu-ray売り上げが2000枚ほどで、原作の人気に見合った数字とはならなかった。
ギャグアニメで数字を取ること自体困難で、人によって分かれるジャンルでもあるので評価が難しい。
序盤の勢いから比べると尻すぼみになっていた感は否めないが、全体的によくまとまっていたし、十分他人に勧めるに値する作品だ。
くだらないギャグアニメで笑いたい人はぜひ観て欲しい。