2018年

【2018アニメ映画】「詩季織々」アニメレビュー





(81点)

新海誠作品をはじめとした、鮮麗な映像美と心震わせる作品作りで知られるコミックス・ウェーブ・フィルムと中国のアニメ業界をリードするブランドHaolinersとのコラボレーションが実現! そのHaolinersの代表も務めるリ・ハオリン(李豪凌)監督が、 10年近く前に『秒速5センチメートル』を観て新海誠監督に憧れ、熱烈なオファーをコミックス・ウェーブ・フィルムに送り続けたことにより、本プロジェクトが始動。 リ・ハオリンを総監督に、実写映画出身でアニメ初挑戦となるイシャオシン(易小星)、そして、CGチーフとして長年に渡り新海誠作品を支え続けてきた竹内良貴を監督に起用。 竹内監督は、オリジナル作品として初監督に挑みます。監督全員が30代前半と、日本と中国の若き才能が集結。自らの思いを重ね合わせ描くのは、中国の暮らしの基となる【衣食住行】。

詩的にして鮮烈な風景描写のもとで描き出された切なくも温かいストーリーは、観る人達の感情を優しく深く揺さぶり、時代や国境を越えて、 誰もが共感できる3つの短編からなるオリジナルアニメーションが誕生しました。映画「詩季織々」公式サイト




若者と過去の現在を描いた青春ハートフル映画

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (81点)
完走難易度 超易しい

コミックス・ウェーブ・フィルム/絵梦の共同制作によるオリジナルアニメーション。

監督はイシャオシン/竹内良貴/リ・ハオリン。

変化

c「詩季織々」フィルムパートナーズ

この作品は全3部作のオリジナルアニメーションだ。

それぞれで登場人物が変わり、ストーリーも全く違うものになる。それぞれで監督も違うという特殊なオリジナル映画だ。

それぞれでテーマがあり、第1章で描かれるのは「郷愁」「変化」など、過ぎ去る寂しさをコンセプトにした短編ストーリーだ。

大人になって中国の首都・北京に引っ越した湖南省出身の主人公が、大都会の大勢の中の1人に過ぎない今の自分に嫌気が差し、楽しかった子供時代を「ビーフン」の味と共に思い出すというもの。

思わず匂いまでしてきそうなほど懐かしさに駆られる故郷の美しい風景。ビーフンと共に思い出す青春時代。

鮮麗な映像美は「秒速5センチメートル」「君の名は。」で有名なコミックス・ウェーブ・フィルムだからこそ描けるもの。

全てが美しい。語彙力が消えるほど美しい。

主人公のモノローグで進むストーリーも余計に郷愁を誘う。昔食べた故郷のビーフン。学生時代の初恋。

昔は良かった。昔の自分を美化し昔の風景を美化し、昔は楽しかった。そう誰もが過去に思いを馳せてしまうような作品だ。

しかし永遠はない。必ず時間は過ぎて景色は変わって、青春は過去の思い出になり、ビーフンの味も変わる。

そうした変化によって生まれる寂しさ。久しぶりに帰った故郷では、昔一緒にビーフンを食べたおばあちゃんが病床に臥し、主人公も今や都会で仕事をしている。

変わるということは苦しさを伴う。見慣れた景色が変われば戸惑うのは当たり前だし、変わろうとするということは「苦しさ」「寂しさ」もセットでついてくる。

だが変わるものがあると同時に変わらないものもある。学校近くのビーフン屋は昔のように家族みんなで営んでいる。変わらないものは心の拠り所となり、安心感と元気をくれる。

2度と戻らない淡い日々。楽しいことも苦しいこともあった。でも心の中では苦しかった思い出も時間が解決してくれる。青春の1ページとして、自分の背中を押す糧となっている。

変わっていくことに対する寂しさがありつつ、変わらないものに目を向けることでまた前を向いて歩くことができる。明日に向かって頑張る勇気をもらえる。

そういった繋がりが30分程度のストーリーに内包されており、短いながらも心に訴えかけるような作品になっている。

故郷には見知らぬ店が立ち並び、新築の家やアパートが増え、昔懐かしい思い出の景色がどんどん壊れていくような恐怖にも似た哀愁。これは個人的な帰郷あるあるだ。(笑)

しかし変わるからこそ美しいともいえる。過ぎ去った過去の苦い思い出を自分の中でいかに消化して、自分の今後の糧として生きていくか。

そんなことを考えさせてくれる素晴らしい第1章だった。

ぜひ1度ビーフンを食べてみたい。あんな美味しそうに食べられては困る。飯テロにも程がある。(笑)

自分らしさ

c「詩季織々」フィルムパートナーズ

第2章は小さなファッションショー。

主人公はトップモデル。両親はおらず妹と2人暮らし。

モデルの仕事をこなして稼いでいきトップを取る。その景色が当たり前になり、仕事にやりがいを見いだせなくなっている。

そうこうしている間に下からの突き上げで自分の地位はあっけなく崩れ、一度の失敗ですっかり過去の存在となってしまう。

自分らしさとは何か。自分はどうなりたいのか。そういった指針がないまま主人公はモデルを頑張り、妹の前でも尊敬される姉であろうと気を張る。

そうやって主人公の心と身体はすり減り、妹とは喧嘩し、大事なショーで倒れて怪我をしてしまう。

仕事も妹との関係も上手くいかない。モデルを諦めて手に職つけようとする主人公だが、マネージャーの言葉で自分らしさを取り戻す。

自分らしく生きる。自分らしい方法で自分を表現する。世間でどう思われても構わない。妹に勇気づけられた主人公は、またモデルとして別方向のやり方で生き残っていく。

自分らしさとは何か。自分らしい方法が結局は一番長続きするし、努力する近道でもある。

自分らしさを考えずになんとなくやっていることは長続きしないし、どこかで壁にぶつかったときにそれを乗り越えるパワーを出せない。

自分らしさを知ることは進むべき道を定める第一歩。就活の前に適性検査を受けるようなものだ。(笑)

自分のやりたいことは何か。自分の強みとは何か。自分にできることは何か。

自分のやりたいことと強みがより高い点で交差するような特技を見つけ、それを武器にして生きていく。見つけるのは若いに越したことはない。

もちろんやりたいことに早いも遅いもないのだが、夢を仕事にしたいなら若い方が有利なのは当然だ。自分は20代になってようやくそのことに気づいたので若干後悔している。(笑)

今一度自分がやりたいことや強みを思い出し、人生の目的と照らし合わせる。自分らしい生き方を探す終わりのない旅。自分らしさとは何か。深く考えさせてくれる第2章だった。

安元さんのおネエキャラが最高に面白いこともオススメポイントとして付け加えておこう。(笑)

初恋

c「詩季織々」フィルムパートナーズ

第3章は初恋。

主人公は建設会社に勤める社会人。

仕事でのストレスを抱えた末に実家暮らしをやめ、1人暮らしをするために引っ越しをする。

引っ越しの荷物を広げる作業のさなか、主人公は1つのテープを見つける。

それは昔、主人公が初恋の女の子と交わしていた日記。それを再生するために昔住んでいた古民家を目指す。

その道中で回想が入り、主人公と、親友と、初恋の女の子の3人が一緒に仲良く遊んでいた記憶とともに、初恋の女の子と別離を迎えるまでの一連の流れが明らかになる。

テーマを考えさせてくる作風から一転、心に直接訴えかけてくるような「恋愛」を描いた作品になっている。

初恋の思い出。貧困街で走り回り一緒に遊び、心地よい風とともに流れる時間、一緒に帰った歩道橋。

何もかもが郷愁を誘う。ゆったりと流れる時間を演出する様々な風景が作品を彩り、安らぎや懐かしさを無理やりにでも感じさせる。

これが俗にいう「エモい」という感情なのだろう。初恋の女の子とテープを介して交換日記をするなど、どんな生き方をしたらそんなエモいことが思いつくのだろうか。(笑)

しかもそのテープが8年越しに段ボールから見つかる。そして8年前の初恋の女の子の肉声を、大人になった主人公が聞き、女の子の思いを知った主人公が涙する。

あの時彼女の思いに気づいていれば。そう後悔してもどうにもならない。過ぎた時間は戻ってこない。

「あの時こうしていればこう言っていれば、今ごろあの子との関係は変わっていたのかな」

初恋の経験がある人なら誰しもが持っている後悔。

その後悔を見事に30分という限られた尺の中で、心を深くえぐるようなストーリーに仕立てている。「秒速5センチメートル」に感銘を受けた監督らしい運び方や心理描写も各所に見られた。

仕事が嫌になって自分が嫌になって。逃げ出すように引っ越しをする主人公。そんな後ろ向きな心を苦くも優しい過去が包む。

その過去は決して明るいバラ色の思い出ではない。むしろ互いにすれ違いを引き起こして別れた苦い記憶。

しかしそれが主人公の背中を押し、初恋の相手への思いに決着をつけることで、また前を向いて歩いていく。

後悔が人間を強くする。過去を振り返ることで、どんなに苦い過去でも自分の一部になっていることに気づく。そして自分らしく頑張った先に臨む未来が待っている。

主人公にとってのそれが「初恋の相手との再会」。クライマックスは再会した幼馴染が空港で仲良く会話をしている。みんなが臨んだハッピーエンド。全てにおいて美しくエモい第3章だった。

総評:スゴイ

c「詩季織々」フィルムパートナーズ

一体何を食ったらこんなに心に響くストーリーが描けるのだろうか。特に第3章の「上海恋」には感銘を受けた。

さすが新海監督に魅了された新進気鋭の監督が描いた作品だ。ところどころに新海イズムが息づいている。

誰もが共感できる3つの短編ストーリーという触れ込み通り、そのどれもが心をつかんで離さないようなテーマや魅力があり、アニメとはかくあるべきという真髄を見た気分だ。

それぞれの章で別のキャラクターが登場し、それぞれの人生が描かれるわけだが、それぞれが独立しているようで実は繋がっていると勝手に解釈をしている。

過去というしがらみ。過去を振り返らないで前だけを向いて生きるというのは、どんなに今が充実していても不可能だ。

誰もが過去にとらわれ後悔に苛まれて生きている。だが同時に後悔から希望が生まれ、明日への活力となり、なりたい自分へと変わるための足掛かりとなる。

やり直せないからこそ尊い。自分らしく生きると決めたその日から、未来が良い方向に変わっていく。

いろいろなことを考えさせてくれたし、生きるためのヒントや勇気をもらえた作品だった。

作画は素晴らしい。背景も素晴らしい。音楽も素晴らしい。何もかもがハイクオリティ。

舞台が中国で中国人の方が総監督を務めている作品だが、全く中国感はない。もちろん風景は中国そのままなのだろうが、世界観といい感情を揺さぶるストーリーといい、まるで日本のアニメ映画を見ているかのようだった。

いや、むしろ日本のアニメ映画よりも数段レベルが上だ。直近でひどい映画を見たもんだから余計にそう感じる。(笑)

もちろん制作の大元を担っているのはコミックス・ウェーブ・フィルムなので、「らしさ」を感じてしまうのは当たり前だろうが、陣頭指揮を執っている総監督が中国人なのだから、お飾りではなく、あらゆる工程でガッツリ制作に噛んでいるはずだ。

むしろ唯一日本人が監督を務めた第2章が一番微妙だった感は否めない。(小声)

だが、もっと「中国カラー」を前面に押し出しても面白かったとは思う。

この作品は実に日本人好みで、それぞれに日本でもなじみのあるテーマが扱われてはいるが、どうしても日本寄りだ。

この作品をより中国人の視点に近い世界観で描いたらどうなるのか。気になるところではある。

雑感:これぞアニメ

c「詩季織々」フィルムパートナーズ

素晴らしい。こんなところにこんなにも素晴らしいアニメが眠っていたとは。

これぞアニメ。深く考えさせてくれる普遍的なテーマ。こだわって描かれるキャラクターの表情や仕草。美しい背景。雰囲気を演出する音楽。

そのどれもが高次元でマッチしている。これほどのハイクオリティなアニメを見せられては、気持ちの昂ぶりを抑えられない。

だが中国感が少し中途半端なのはケチがつくところだ。

中国人の方が監督を務めており、スタッフの中にもアニメをよく知る中国人の方々が参加しているのだから、中国らしい世界観をもっと注入しても面白かっただろう。

多少価値観の相違が生まれそうだが、それもまた一興。他国の文化として自分の肥やしにできるし、個人的には余程のことがない限りマイナスに受け取ることはない。

ただ日本人好みに忖度して描いてくれた感は素直に嬉しい。

日本への、新海監督へのリスペクトを随所に感じることができたし、他国に影響を与えるほどの日本アニメを、また誇りに思うことができる作品でもあった。

素晴らしいアニメなのでネトフリに登録している人はぜひ観て欲しい。




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