(78点)全12話
人間は迫害され、絶滅の危機に瀕していた。
そんなある日、
森の番人である「ゴーレム」と
ひとりの人間の少女が出会う。
滅びゆく種族「人間」と森の番人ゴーレムの
父娘の絆を綴った旅の記録。TVアニメ「ソマリと森の神様」公式サイト
ゴーレムと少女の旅を描いたファンタジーアニメ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (78点) |
完走難易度 | 普通 |
原作は暮石ヤコ先生。
監督は安田賢司さん。
制作はサテライト。
不思議な空間
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
不思議な空間で物語が始まる。
色とりどりの草木が生い茂り、未知の生物が暮らすその森はまるでジブリの世界のよう。
そしてその世界の中でもひと際異質なのがゴーレムで、彼の語りから物語が始まっていく。
彼は森の守護者で、正しい食物連鎖には関与せずに森の生態系を日々見て回る。
そんな彼がある日出会うのが「ソマリ」と後に名付けることになる一人の少女。
彼女を本物の娘のように愛し、共に旅をするハートフルアニメだ。
ゴーレムとは本来無機質な存在。マッドサイエンティストの手によってツギハギに作られた無感情の存在というイメージが強い。
しかしこの作品では言葉を介する守護者。そして、一人の少女の父親代わりになるという優しい「人間に近しい存在」として描かれている。
娘のソマリも年相応の可愛さがあり、すぐに目の届かないところに行ってしまう危うさ・自由気ままさ、無邪気な可愛さがしっかり描かれている。
不思議な世界観に喋るゴーレム。そして森に残された一人の娘。彼女との旅。
これが1話の冒頭のほんの5.6分程度で描かれる。少し早すぎる気がしないでもないが、しっかりと世界観の説明を導入として入れているため、置いてけぼり感はそれほど感じなかった。
旅の目的
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
旅の目的は「ソマリの両親を探す」こと。
この作品の世界は人間と動物の立場が入れ替わっている。
もしも人間と家畜の立場が逆転したらという「もしも」の話はよくされるが、まさに人間が動物に家畜の様に扱われ、「動物が人間を食う」という文化があったことも1話で明らかになる。
つまり異形たちにとって人間は格好の餌で、異形たちに見つかってしまえば身の危険にさらされてしまう。
森に捨てられていたソマリは「人間」。彼が異形たちによっては忌むべき存在で、その存在を知られてしまってはならないという緊張感を生む。
少し説明臭いシーンではあったものの、人間がどういう存在でソマリがその世界でどういう立場なのかを明確にし、父親代わりであるゴーレムがソマリの命を握っているという緊張感を生んでいた。
無邪気な子供を危険に晒せない。感情の見えないゴーレムだが、ところどころに優しさが垣間見えるようなカットが多々あり、実に心温まる「親子愛」に溢れた旅アニメだった。
主人公のゴーレムは何者でソマリは何者なのか。感情がないはずのゴーレムがなぜソマリに入れ込むのか。
シンプルだがらこそ引かれる伏線がしっかりと1話で張られている。さらに2話で明らかになる「ゴーレムの寿命」。
限られた寿命でソマリの両親を探さなければいけない。そうでなければソマリは子供のまま路頭に迷うことになる。
旅を急ぐゴーレムと、お父さんといつまでも一緒にいられると無邪気に想うソマリ。
そんな2人の少しの方向性の違いから生まれる亀裂、そして亀裂を経て強くなる絆だったりがイベントを通してしっかりと描かれており、全体的に良く出来たストーリーだったと思う。
親子
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
2人は本当の親子ではない。
ゴーレムは本来は森の守護者。ソマリはゴーレムが森で見つけた人間の少女。
しかしそこに「愛」は確かに存在している。
ゴーレムは人間の感情を解せず少しズレた思考を持っているが、ソマリを大切に想う心を持っており、ソマリも自分を拾ってくれたゴーレムの役に立とうと必死に頑張る。
それが顕著に出るのが個人的な序盤の山場でもある4話。
ゴーレムはソマリの条件付きの外出を認めるが、ソマリはその言いつけを破って、危険な地下へと潜ってしまう。
しかしそれは「何でも願いが叶う花」を採取して、「お父さんとずっと一緒にいる」という願いを叶えるためでもあった。
何とか無事に帰って来たソマリだが、言いつけを守らなかったソマリにゴーレムはきつく当たってしまう。
喧嘩をしてしまう2人。その後、ソマリが熱を出して倒れてしまう。
ゴーレムが働いて貯めたお金で買った高価な薬でソマリは無事に回復し、お互いの非を認めあって仲直りするというシーン。
本来は旅を早く進めるための資金になるはずだったお金を迷いなく投入したゴーレム。
そして親子としての在り方が分からないゴーレムが、優しくソマリを抱きしめる。さらにそこで「ずっと一緒にいる」という約束をする。もちろんゴーレムの事情などソマリは知る由もない…
真面目で堅物なゴーレムは普段から嘘などつかないし、付けないはず。ソマリを心配させまいと付いた優しい嘘。
まさに親子の愛を体現したシーンで、思わず涙腺が緩んでしまった。
見せ方も絶妙に上手い。ゴーレムの寿命について観ている私たちは知っているが、ソマリは知らない。「ずっと一緒」という約束が叶うことがないことは分かっている。より一層ソマリの未来が不安になり、楽しみにもなる。
風邪を引くタイミングがあまりに狙いすぎて少し不自然さもあったが、喧嘩して、仲直りして、絆を深めて、一歩ずつ成長していく。
ただ成長して一歩前に進むということは、終わりが確実に近づいている証でもあり。
普通のアニメだったら向かうべきゴールがあやふやだったり、迷走したり、なんなら終わらないまま終わるストーリーもあるくらいだが、この作品には明確なゴールが設定されていて、1話ずつ着実に時計の針が進んでいるのを感じるような綺麗なストーリーになっている。
6話
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
物語の中盤でゴーレムとソマリは2人の旅人、人間の親と鳥族の娘と出会う。
この2人はいろいろと訳ありで、後々トラブルに発展するのだが、そのシーンでこの作品に明らかに似つかわしくない展開へと足を突っ込んでいく。
6話に至るまで徹底して「ほんわか」「感動」を基本路線としてきたストーリーが、6話で突如シリアスモードに。
2人組の親子の片方がソマリの命を狙い、さらにもう一人の親の方の過去回想で、娘を育てた親自身が昔、娘の親を殺した事実が明らかになるのだが、そのシーンがなかなかにエグい。
言葉だと分かりにくいが、つまり今の親はいわば「2人目の親」で、娘を生んだ親を2人目の親が殺したということだ。
問題はその殺したシーン。
鈍器で滅多打ちにして洞窟まで引きずり、飢えをしのぐために家族みんなでそれを食すのだが、なにせ異形の生物だったために父親以外の娘と母親はもがき苦しんで死んでしまう。
別のグロアニメが始まったかと思うほどの描写に思わず目を背けてしまったし、明らかに作品の世界観に反するシーンだったと思う。
そのシーンで実際に切ってしまった人も多くいただろうし、折角途中まで綺麗に進んでいたストーリーに少しケチが付いてしまった感じだ。
6話以降も何度か似たような描写があるが、グロ描写と普段のほんわか描写の調和がとれていない気がして私は好きになれなかった。とはいえ、ギャップがあるとも捉えることもできるのだが。
人間と異形たち
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
この作品のテーマの1つでもある人間と異形たちの関係図。その関係図は現実の人間のあり方を思わせる。
物語に出てくる人間は現実の人間と同じように、自分とは違うモノに対して「過剰な警戒心」を持っている。いわゆる差別意識というヤツだ。
自分たちとは違う見た目なのに同じ言語を話す。気持ち悪い。
そうやって「外見」だけで判断して排除していく。人間と異形たちは争うようになり、やがて人間は異形たちから「敵」「捕食対象」と見なされるようになってしまった。
現実の人間の差別の始まりも似たようなものだ。自分以外の「馴染みのないモノ」を排除する。それは世界だけではなく日常にも潜んでいる。
そんな重いテーマをはっきりとではないが誰でも分かるようにストーリーの中に潜ませていて、思わず考えさせられてしまった。
お互いに差別意識を失くして仲良くする。そんなことを口にするのは簡単だ。しかし何度差別根絶が叫ばれても差別反対運動が起こっても、人間がいて人間に「感情」がある限り差別が消えることはないだろう。
しかし、ソマリが自分を騙して密告したローズおばさんを助けようとしたシーンにもある通り、人間だ異形だ関係なく助け合う心を持ち続けることが大切なのは間違いない。
と、柄にもなく差別について語ってみたが、柄にもなく考えさせてくれるような深いテーマを扱った作品だった。
総評:もっと見ていたい
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
ソマリの無邪気な年相応の笑顔。ゴーレムを父親と呼び心から愛し合う2人の関係は微笑ましく「もっと見ていたい」と思わせてくれる30分12話だった。
物語の構成が非常に綺麗に作られており、2人の絆が育まれソマリが少しずつ成長し、ゴーレムもまた少しずつ人間の感情を解していく過程が丁寧に描かれていた。
旅の序盤で明らかになる「ソマリの親を見つける」という旅の目的と「残り1年」というゴーレムの寿命。
序盤に伏線として明らかにすることで、2人の行く末がどうなるのか見届けずにはいられなくなる。原作通りかは分からないが「構成勝ち」だ。
非情に綺麗なストーリーの流れで、作画も綺麗。声優さんの演技も素晴らしかったように思う。
特に主人公のソマリと父親のゴーレムを演じた水瀬いのりさんと小野大輔さん。この2人の演技は流石の実力派という感じだった。
ソマリの弱弱しい中にも垣間見える強さだったり優しさだったり。子供らしい一面を声で表現していて「これがプロか」と思わず唸ってしまうほどだった。
ゴーレム役の小野さんもゴーレム特有の無機質な感じを表現しつつ、時折見せる人間らしい感情やソマリへの愛情が声にこもっていて安心感を覚えた。流石としか言えない。
これほど「声優が演じている」というのを忘れさせられるアニメは久しぶりだ。それこそまだ「声優」という存在を知らずにアニメを観ていた時代以来だったかもしれない。
おかげで作品の世界にどっぷり浸かることが出来たし、普段のストレスを水分にして体外に流すことができた。(笑)
惜しむらくは最後の締め方くらいだろうか。少し中途半端な形で終わってしまっている。
序盤で旅の目的とゴーレムの寿命をはっきりと明かしたということは、「終わりが確実にある」ということと同義だ。
フリがあるのにオチがないことはあり得ない。1クールか2クールか。決まった尺でオチを付ける必要がある。
しかしこの作品は12話で完結していない。ということはつまり2期以降に締めくくりを委ねたということだ。
このご時世その判断は「凶」と出ることが大半だ。円盤が売れないと2期は作れない。もちろん例外はあるが。
この作品がその「例外」になれるかは分からないが、おそらくは円盤もそれほど売れていないはずだ。(現時点で215枚…)
個人的には素晴らしい作品だと感じている分、どういう結末を迎えるのかを見届けられないのは心残りでしかない。
原作が今も続いているのなら、そこは思い切ってアニオリ展開に持ち込んででも結末を描いた方が良かったのでは、と思ってしまう。
今後メディアミックスがあるにしても恐らくはOVAが限界だろう。そうなると12話の終わり方からして、仮に「上中下巻」で発売しても、恐らく尺が足りずに駆け足になってしまう。
フリがあったのにみんなが期待したオチがなかったことで、世間的な評価を確立することはできなかったが、親子愛を感じることが出来る素晴らしい作品であることに変わりはない。
雑感:惜しい
©暮石ヤコ/NSP/ソマリと森の神様プロジェクト, mixer
つくづく惜しい作品だった。12話で綺麗にまとまっていれば、確実に今より知名度がある作品になっていたはずだ。
このご時世、円盤が爆売れするのはかなりのレアケースだ。そもそも配信サービスで観られる作品をわざわざ購入する人はYouTubeでスーパーチャットを頻繁に送れるようなブルジョワしかいない。
「話題性」「名言」「シンプルな面白さ」「アニメ通をうならせるアニメの質」「キャラの魅力」
何かしらの武器がないと円盤は絶対に売れない。円盤が売れないと2期は99%無い。にも関わらず、ほとんどのアニメは2期への可能性を残して終わる。
もしかしたらこれはアニメ業界では一種の「ならわし」なのかもしれないが、1期でまとめる勇気や潔さも必要なのではないかと、いつも思う。
この作品でもゴールを視聴者に強く印象付けておきながら、結局最後は「旅はこれからも続いていく」的な展開で終わっており、ある意味視聴者への「裏切り」「肩透かし」となってしまっている。
2期への可能性を残すのか、それとも原作ストックを無視して1期でまとめるのか。もちろん作品によって判断は異なるが、この作品の場合は後者がベターだったと思わざるを得ない。
「綺麗にまとまっていない」という点で勧めづらい作品ではあるが、親子愛を堪能できる素晴らしい作品ではあるので興味があるという人はぜひ観てほしい作品だ。