(37点)全13話
固い絆で結ばれた家族の日常を描いたファンタジーコメディ
ストーリー | |
作画 | |
面白い | |
総合評価 | (37点) |
完走難易度 | 超難しい |
原作は森見登美彦先生。
監督は吉原正行さん。
制作はP.A.WORKS。
狸
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
いろんなものに化けることができる「狸」が主人公のファンタジーコメディ。
人間と狸と天狗が暮らしているという世界を舞台に、狸一家が日常を平和に暮らすという物語。
1話は主人公の師匠と思しき老人が登場し、彼の命を受けて天狗の神通力で空を飛ぶ謎の美女に手紙を届ける、という内容になっている。
正直1話では全く何も掴めない。なぜか性別を変えて女子高生に化ける狸と、何の師匠かも分からない老人、そして空を飛ぶ謎の美女。
一体このアニメのどこが面白いのか。率直に言えば意味不明だ。
狸の主人公は女子高生に化けているのだが、そのナリでたばこを吸いながら酒を飲むというどっかの放送団体に堂々と喧嘩を売るようなことをしているのが一番の衝撃だ。(笑)
森見先生は「四畳半神話大系」でも有名なお方だが、森見先生らしいキャラクターのセリフの言い回しが随所にあり、この特有の癖が好きな人ならハマるかもしれない。
方向性
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
3話になっても作品の方向性が見えない。この作品が何をしたいのかが分からない。
狸と人間と天狗。三つ巴の関係が同居している世界。主人公の父親が人間に食われた。同じ狸一族とのお家騒動。
ストーリーの足掛かりになりそうな情報はあるが、そのどれも深堀りしないという不思議な作品だ。
継続か切るかの1つの基準となる「3話」までを視聴した時点で、何も分からない作品などあまりに珍しい。
3話で判断するどころか判断する材料さえ揃わないのは異常だ。
「これ面白いでしょ?」と一方的に押し付けてくるようなアニメで、キャラクターの紹介とか方向性をバシッと決めようとか、そんな配慮を一切感じない。
「ま、好きな人だけ見てくれればいいから」という気持ちさえ透けて見える。確かに先生の作品はどれも文学小説のような作品が多く、かくいうこの作品も小説が原作だ。
だからかもしれない。小説調で会話が展開され、アニメ趣向のダイナミックな展開や感情に訴える面白さよりも、古き良きアニメ文化といった趣の作品になっている。
アニメ向きな作品とは思えないが、もしかしたら中盤以降、劇的に面白くなる可能性もあるので楽しみだ。
カースト
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
そこまで大きな括りではないが、キャラクター内でカーストがある。
主人公たちの家族は狸の一族。そしてその狸よりも地位が上なのが天狗と人間。その2つの中でも人間は、狸を鍋にして食ってしまう狸からすれば天敵のような存在。
だから狸は、人間社会の中で物凄く窮屈に暮らしている。常時カエルに化けて身を隠すような狸もいるほどだ。
そこら辺の弱肉強食、食物連鎖など、食うか食われるかのひっ迫した世界観であることも徐々に分かってくる。
しかしなんということもない。主人公の父が人間に食われたという過去が明らかになるが、それで父の仇を討つために厳しい修行をして強くなったり、父の仇をとるために敵のアジトに乗り込んだりするわけでもない。
そういう関係性があるというだけで、特にそれが何かに繋がるわけではない。人間と狸で死生観について意見を交わす程度だ。
この作品はセリフが説明口調で、小説の文をそのままセリフにしたようなまどろっこさがある。
終盤に至るまで、ストーリーを見ても特に何が起こるでもないし、面白いギャグがあるわけでもない。
とにかくキャラクター同士の小粋な掛け合いで、何とか面白さを演出しようとしている作品だ。
何でもかんでも喋らせる。アニメである意味を特に見いだせない作品になってしまっている。
楽しむ
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
序盤はキャラクターの紹介もなく、ただ狸がどうとか天狗がどうとか、訳が分からないままにストーリーが展開されている。
だがストーリーが進むごとに、このアニメがおそらく伝えたかったであろうメッセージが徐々に浮かび上がってくる。
私が感じたのは「楽しく生きる」ことの大切さ。
主人公たち一家は狸だ。このアニメの世界には、狸と天狗と人間の3種類の生物が共存している。
天狗は空を飛ぶことができ、人間は言わずもがな理知的で万能。だが狸にはせめてもの変身能力があるが、それ以外は極めて非力な存在だ。
だから自ずと弱肉強食の世界で狸たちは「食われる側」になる。
そんな狸たちにとって訪れる明日は当たり前ではない。いつ食われるかも分からない中で懸命に生きている。
だからこそ今を面白可笑しく楽しむ。いつ死ぬかも分からない明日を考えてもしょうがない。楽しく生きてなんぼ。そん前向きなメッセージを感じ取ることができる。
終盤のストーリーで父が辿った運命を辿るように、家族全員が分家の狸たちに捕らえられて「狸鍋」にされそうになってしまう。
しかし絶体絶命の場面でも諦めずに、家族みんなで助け合い、何とか誰一人死なずにまた明日を手に入れる。
ようやく終盤になって、このアニメがやりたいことが見えてきている。正直遅すぎるくらいだが、一連の争いには緊張感があった。
総評:有頂天?
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
アニメのタイトルは有頂天家族。どこに有頂天な部分があったかは分からない。
だが狸として生を受けた狸ならではの価値観や死生観、家族の絆など、いろいろと思うところのある作品だった。
主人公は語りで「楽しく生きることこそが大事」というニュアンスのセリフを最後に言うが、これは狸だけではなく人間にも当てはまるのではないだろうか?
狸と同じく人間の一生も一度切り。つまらなくてもやり直すことなどできない。自分の思う通りの未来を掴めるかなんて分からないし、過去を振り返ってもどうにもならない。
だったら今を見ようじゃないかと。今更ながらそんなごくごく当たり前の大切なことに、この作品は気づかせてくれる。
自分が死ぬときに後悔が無いように。それこそ鍋にして食われても一切動揺せず、後悔もせず、堂々と鍋にされて食われた主人公一家の父のように、死に際に「何の憂いもない」と言って死ねるのが最良ではなかろうか。
ただアニメの内容を振り返ったときに、そこまで面白可笑しく、ふざけて笑いあって、どんちゃん騒ぎをするといったようなシーンは、それほどなかったように思える。
どんちゃん騒ぎはしている。どんちゃんという表現が生易しいと感じるほどの暴挙は数々ある。
だがそれが「笑い」を生んでいないせいだろうか。それほど「狸生」を楽しんでいるように見えない。
全体を通して言えるが、このアニメには「有頂天」とは名ばかりで、有頂天になってヒャッハーと言っているような描写はなく、同時に笑いもほとんどない。
アニメ的な面白さに乏しい作品だ。視聴を継続するのにいささかの根気を必要とした。
序盤はキャラの紹介もアニメの紹介もないままに、突然狸だ師匠だ天狗だと、アニメに入らせる気がないのかと思うほどに、飛び飛びで進んでいく。
その時点で少々萎えてしまっている。この作品特有のセリフの癖もあって、完全に置いてけぼりを食らってしまっている。
終盤にようやくアニメらしい展開になってはいるので、そこまで我慢すれば見返りはそこそこある作品だろう。
雑感:海星
©森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族」製作委員会
海星という可愛らしい狸がいるのだが、彼女にもっと出番を与えて欲しかった。
どうやら主人公の元許嫁らしいのだが、その主人公でさえ素顔を一度も見たことがなく、作中でも数回しか視聴者に素顔を晒してくれない。
結局最後まで主人公には顔を見せず。彼女曰く、どうしても顔を見せたくないらしいのだが、そこまでする理由は何なのか。
顔も声も可愛い彼女がもっと主人公と積極的に関わりを持ち、そうでなくても最後に一言面と向かって言葉を交わすことくらいして欲しかったのが正直なところだ。
可愛らしい彼女がヒロインポジションにいてくれれば、もう少しこの作品も見どころがあったのだが、そこはこの作品が求めるところではなかったみたいだ。
どうやら2期もあるようだが、残念ながら観ようという意欲は湧かない。
小説のような趣のアニメを楽しみたい人、そして森見先生のファンは観てみると良いかもしれない。