2020年

【2020アニメ】「魔女の旅々」アニメレビュー





(90点)全12話

あるところに一人の旅人がいました。彼女の名はイレイナ。若くして魔法使いの最上位「魔女」となった才女です。
幼いころに読んだ旅の物語に憧れて、流されるように気ままな長い旅を続けています。
この広大な世界を自由に渡り歩き、わけのわからない可笑しな人や、誰かの美しい日常に触れながら、
彼女は旅人として、これといった目的もなく、色々な国や人との出逢いを繰り返します。そして同じ数だけのーー

「構わないでください。私、旅人なものですから。先を急がなければならないのです」
そんな魔女イレイナが紡ぐ、出逢いと別れの物語…。TVアニメ「魔女の旅々」公式サイト




魔女の旅を描いたファンタジー×日常アニメ

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (90点)
完走難易度 易しい

原作は白石定規先生。

監督は窪岡俊之さん。

制作はC2C。

魔女

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

魔女が存在する世界で史上最年少の14歳で魔術試験に合格し、魔女見習いとなった主人公のお話。

魔女見習いから魔女になるために様々な魔女のところへ赴き、弟子入りをさせてもらおうとするも、彼女の存在を疎ましく思う魔女たちから拒否されて路頭に迷ってしまう。

そんな中で「星屑の魔女」と呼ばれる魔女の元に弟子入りをし、1年間の修行の末に見習いの肩書きが取れて晴れて正真正銘の「魔女」になり、各地を気の向くままに旅するというストーリーになっている。

魔女がいる中世風な世界観は、かの有名なジブリ作品を彷彿とさせる。旅がコンセプトになっているだけあって、最初は誰もが平和で優しい世界を想像する。

魔女になった主人公が各地を旅していろんな人と出会い成長する。そんなほのぼのとしたストーリーだ。

だがこのアニメが少し異質であることが1話を観ればはっきりと分かる。

魔女に弟子入りした主人公は最初、全く師匠から魔法を教えてもらえず、パシリ同然の扱いを受けてしまう。

しかし痺れを切らした主人公が「そろそろ魔法を教えてくれ」と師匠にいうと、何を血迷ったか突然、師匠が本気で魔法もろくに扱えない弟子を魔法でいたぶるという、バトルアニメみたいな展開が始まる。(笑)

「魔法は実践で学べ」的ないかにもバトルアニメ的なノリかと思いきや、さすがにそこまでの意図は師匠にはなく、最終的にもちろん殺す意思などなく、彼女の本音を引き出すための試験だったことを明かす。

それにしても、全く別のアニメが始まってしまったかと思うほどの変わりようで、「旅」というコンセプトとは繋がりを見いだせないほど、激しいバトルが繰り広げられる。

だがそれがただのバトルではなく、師匠の優しさの裏返しであること。魔女として生きていく上で何が大切かを教えるための実践だったことで、異質な展開ではあるが、ちゃんと作品の一部として溶け込んでいる。

そして1話で学んだことが2話で早速発揮される。魔導士と呼ばれる魔女見習いよりも1ランク下の女の子の、「師匠」のような存在になった主人公は、自分の経験を伝えることでそこで新たな絆が生まれる。

出会いこそ旅の醍醐味ともいえる。魔導士から魔女見習いに昇進した女の子が主人公と再会することはあるのか。次はどんな出会いがあるのか。旅アニメの面白さをしっかりと楽しめる作品になっている。

残酷

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

1話の師匠とのバトルでもあったが、作品の本筋とは一見かけ離れている「残酷さ」がこの作品の異質さを一層際立たせている。

3話では初めてその傾向が顕著になり、Aパートでは人を養分にする植物が現れ、主人公が出会った2人の男女がそれぞれ植物に取り込まれてしまうのを、主人公は目の前で目撃することになる。

Bパートでは主人公が訪れた村の村長と、その村長の息子と、村長の元で奴隷として働く女の子のお話。

生きることに絶望する女の子に何とか「幸せ」な気持ちをおすそ分けしようとする村長の息子。

彼女のために集めた幸せの魔法を解き放ち、外の世界がどれだけ幸せに溢れているのかを彼女に見せる。

生きることが苦しい彼女にとってそれは未知の世界であり、いまだ味わったことのない幸せの形に感動で涙を流し、村長の息子と抱き合ってハッピーエンドという流れになっている。

しかし主人公が村を去った後、主人公は奴隷の女の子と同じような境遇になった人物が感動するのではなく、逆に自分には到底得られない幸せを見て絶望して、夫を殺してしまうというお話を思い出す。

そして「奴隷の女の子が村長の息子とどのような結末に至るのか分からないし、知りたくもない」という含みを持たせて3話が締めくくられている。

誰かのためによかれと思ってしたことが、全くの逆効果をもたらし悲劇に繋がる。

実際に主人公が思い出した物語のように、奴隷の女の子が村長の息子を殺したかどうかは分からない。

ただ直接的な描写がない「匂わせ」であることが逆に恐怖を誘う格好になっている。

怪談で最後に結末を言われるよりも、想像力を掻き立てるようなラストにすることでより恐怖が増すように、思わず身震いをしてしまうような残酷的な演出も各所で見せてくる。

良い意味でタイトル詐欺な作品だ。魔女の旅は決して出会いと幸せに満ちた世界ではない。

様々な国があり、国の分だけ価値観があり、常識の尺度で測れない異常な現象や人物に出くわすことも、確かに旅の一部だ。

個人的には「キノの旅」の面影を感じる作品だ。意識しているかどうかは分からないが、一筋縄ではいかない現実や、決して幸せだけではない残酷さをありのままに描き出す。

旅というものはそういうものだ。そこにロマンを感じる人も多いだろう。旅をするならイレギュラーが付きまとうのが当たり前。

もう1つの残酷さという面で言うと、主人公の性格もまた一種の残酷さを内包している。

主人公は決して正義の味方をしない。奴隷の女の子が村長に理不尽に怒鳴られているときも、1つの街を滅ぼした怪物と戦う決意を固める王女を前にしても、損得勘定で彼女は動く。

魔女の力を持っている主人公とあらば、特に理由がなくても助けに入るような場面で、主人公は「自分に得がないことはしたくない」と言い放つ。そこには確かに1話で師匠に教わった教えが息づいている。

理想の主人公像からはやはり「ズレ」がある。そのズレ、残酷さがこの物語のアクセントの1つになっている。

だがその「ズレ」こそ主人公の性格の一部であり、彼女のブレない「芯」を表していることが分かるのは終盤になってからだ。

セリフの端々にも魔女としてのプライドが顔をのぞかせ、主人公とは思えない発言も随所にある。その辺りもキノとかなりダブるところがある。

オチ

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

しっかりと各話ごとにオチが付いているから、ぶつ切りでも楽しめる作品だ。

1話ごとに起承転結があり、寒気がするようなバッドエンドにしろ、思わず笑ってしまうようなギャグエンドにしろ、1話でしっかりまとまっているから非常にとっつきやすい。

壁を隔てた2つの国。現実でいうところの昔のドイツのような国が、それぞれ主人公や主人公の友達のサヤという女の子の何気ない行動や些細な言葉によって歴史があっさりと変わり、壁が取り払われるきっかけとなり、それが伝承として後世に残るという大げさなオチが7話である。

5話以降は至って平和な世界観のストーリーになっている。4話までの残酷な描写が嘘のようにギャグ寄りの世界観に変化しており、明らかに意図した路線変更だ。

何か大きな意図を感じざるを得ない。旅は残酷だよ、魔女の旅々はこういう路線でやってくよ、とはっきりと見せたはずなのに途中から露ほども残酷さを見せない。

勝手な予想ではあるが、何か大きなことが終盤に待ち構えている。何か大きなどんでん返しを起こすために視聴者の気を逸らそうとしているかのようにも映る。

どんでん返し?

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

どうやらアニメで培った勘は確かだったようだ。

9話で突然、8話まで一切なかったテロップが冒頭で入る。

「この作品には一部刺激的な表現が含まれます。児童および青少年の視聴には十分ご注意ください。」

いろいろとツッコミどころが満載だ。まず4話までの残虐なシーンは「刺激的な表現」に含まれないのかということ。(笑)

そして明らかに「何かが起きること」を宣言してしまっていること。

週をまたいで視聴している人で気づく人はごくわずかかもしれないが、通しで観ている私のような人は、ネタバレに近いような仕打ちを受けてしまっている。(笑)

間違いなく4話までの残酷さとは比にならないほどの、何か大きな事件が起きることを予見させる。

テロップのせいで心の準備が出来てしまうことが本当に本当に残念で、どんでん返しの面白さが半減してしまっているが、それでも平和な世界から一転して何が起きるのか。全く目が離せない。

総評:衝撃

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

単なる旅アニメの枠を超えた、様々なテーマをぶつけてくる残酷さをもった作品だった。

旅という言葉で思いつく言葉は「楽しい」「幸せ」「温かい」と、どれもプラスの意味のものばかり。

しかしこのアニメにおける「旅」は「不幸」「無常」「残酷」などマイナスな意味がより前に来るようなストーリーになっている。

自分が思う幸せと他人にとっての幸せの見解の違い。嘘をつけないということが必ずしも「みんな正直になる」という裏返しではない。友情というのは実は見せかけの関係で、片方が一方的に抱いているだけの偽物の友情もある。

主人公のイレイナは旅を通して様々な「楽しい」と同時に、自分の未熟さや限界を知って打ちひしがれ悲しみに暮れるという「非常な現実」を目の当たりにする。

急にテロップが入ってしまったことで刺激が半減してしまったのが残念だが、触れ込み通り、9話の一連のストーリーは残虐で残酷であまりに悲しい結末になっており、心をぐちゃぐちゃにかき乱されるような衝撃的な展開になっている。

しかし不快な気持ちにはならない。世界の広さ・残酷さを知って主人公は、自分の非力さを嘆き悲しみ涙する。

その反応が普通の人間そのもので共感できると共に、しっかりと主人公の旅の血肉になっている。

楽しいだけが旅ではない。旅を通して自分の非力さを知る、というのは現実の旅でもよく起こる現象だろう。

残酷さの度合いは流石にアニメ仕様になっているが、それでもファンタジー世界らしいスリリングなサスペンス的要素があり、先述したようにあくまで「旅」の延長線上にあるから違和感は全くない。

旅というコンセプトで、これだけ幅のある作品を作れるということが何よりの衝撃だ。

旅といえば平和な日常アニメが一般的で、なかなかこのような残酷さを描くこと自体難しいことだろう。

しかもそれを旅が本来持つ「楽しさ」と両立してしまっていることも凄いことだ。どちらに引っ張られるでもなく、残酷なところはとことん残酷に。楽しいシーンではとことんギャグ調で。

その棲み分けが素晴らしく、見事に融合して「魔女の旅々」という1つの作品を作り上げている。

思うにしっかりと区別したところがポイントかもしれない。4話までの残酷さで一区切りをつけ、5話から8話までは至って普通の旅アニメのようなのほほんとしたストーリーで、一息ついたところで9話は一気にギアを変えて残虐に全振りしていく。そしてまた10話からは日常に戻る。

計算された構成は見事。平和な世界の中にも終盤にキーとなる伏線がいくつか眠っており、終盤の展開で「ここに繋がるのか!」という驚きまで味わうことができる。

全てにおいて計算ずくで、12話という限られた尺の中で感情のジェットコースターを味わうことができる濃密な作品だ。

9話の悲劇が一見スルーされているかのように、まるで何事もなかったかのように10話以降もストーリーは続いているが、9話が大きな転換点になっており、しっかりとイレイナの心に刻まれていることで11話、12話が意味あるものになっている。

クライマックスの12話での「自分」との対話の中で、どんなに悲しい出来事でも「現実」で起きたことして向き合い、自分の糧としていくことも「旅の一部」だと思えるような成長をイレイナが見せるシーンがあり、原作ではなかったようなシナリオをうまく原作の流れに沿うように入れ込み、繋がりを持たせたまま綺麗に終わらせる脚本の妙は筆舌に尽くしがたい。(筆安さんだけに)

綺麗に終わらせようと考えたときに、イレイナが抱える苦しみを全て吐き出させて楽にさせる、という締め方も選択肢としてあるはずだ。

師匠なり母親なり、イレイナが心を許せる人物と再会をして、9話で起きたことをさらけ出し、「怖かった」と正直に言わせて9話の終わりのようにイレイナがワンワン泣けば、それこそお涙頂戴で多くの人の共感を得られたに違いない。

しかしこの作品は安直な感動に走っていない。イレイナにはブレない芯がある。それは師匠も言うところの「肝心なところで素直になれない」という太い芯だ。

彼女が人に弱みを簡単に見せることは、そのポリシーからは大きく逸脱することになる。

しかし汚い言い回しにはなるが、とりあえず苦しい思いをしたんだから大切な人に慰めてもらえば、それで間違いなく感動を誘うことができる。

弱みをさらけ出したイレイナは膿を全て出し、またまっさらな新しい気持ちで旅を続ける。間違いなく綺麗なエンディングだ。

だがそこに頼らなかったところに凄みを感じる。イレイナの自由奔放さの中にある芯の強さ。苦しみや悲しみを抱えることになるとしても、それを自分の中で押し殺し、他人には決して自分の弱さを見せようとはしない。

そんなイレイナの魅力が凝縮されているような一貫性のある脚本になっており、イレイナという芯を持った強い少女が完璧に出来上がっている。

毎度異なる顔ぶれの中にも、師匠やサヤといったお馴染みの顔ぶれも登場し、旅の醍醐味でもある「再会」を楽しむこともできる。

特にサヤは主人公を病的なほどに愛しており、彼女の行きすぎた主人公への愛情表現が主人公の違う一面も引き出し、1つのギャグ要素にもなっている。

黒沢さんの演技が驚くほどにサヤの人格とマッチしており、いい意味で素人くさい彼女の演技が、彼女の変態性をより際立たせており、聞けば聞くほど病みつきになるキャラクターになっている。(笑)

全てにおいて素晴らしい。これから旅アニメの代表格として語られても不思議はない程、非常に完成度の高い作品だ。

雑感:究極

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

個人的にアニメに求める面白さが全て詰まった作品だ。

感情の波がジェットコースターのようにうねるような喜怒哀楽を描くストーリー。

主人公の成長にもスポットが当たっており、彼女が旅を通して何を見て何を学ぶのか。

彼女の成長を見守りつつ、魔法を使った激しいアクションやサスペンスもあり、手に汗握る緊張感あふれる展開も見せてくれる。

「旅」という軸から最後まで逸れることがなく、単話ごとに起承転結があることで、次の街や国ではさっぱりとした新鮮な気持ちでストーリーに入ることができる。

さらに新しさの中にもそれまでの経験が生きていることを思わせるイレイナのセリフもあり、それまでの旅が確かな意味を持っている。

アニメとして非常に完成されている。話題になるのも納得の面白さだ。

ただ唯一、最後まで伏線として残っている「なぜ主人公は故郷に帰還しないのか」という謎には引っ掛かりがある。

主人公は師匠に「故郷に帰りなさい」と何度か言われているが、そのたびに決まって「いずれ」と返す。

また師匠の師匠が自分の母親であることを知っているはずの主人公が、師匠から「私の師匠が誰か、もう知っているんじゃない?」と聞かれたときに、知っている素振りを見せているのにあえて濁すような返答をしている。

なぜか笑顔で別れたはずの母親に、イレイナは3年経っても会いに行こうともしない。以下は勝手な自分の考察だ。興味がある人だけ読んでほしい。

「自分らしい自由な旅」というのを続けるためにイレイナは「何かに気付く」ことを極端に恐れている。それが大好きな母親に関することで、しかも「師匠の師匠が母親」というなんてこともない「些細な事実」すらも受け入れようとしないということは、恐らく直前にあった9話の残酷な「現実」を目の当たりにしたことが、彼女を「悲しみなど存在しない楽しい旅こそが真に自分が求める旅だ」という固定観念に縛り付ける転換点となっており、9話の救いようの無い悲惨な出来事が、イレイナの心に大きな傷を残したのでは…と推測することもできる。イレイナの表情からはその悲しみを窺い知ることはできない。しかし「内では大きな傷を抱えている」という解釈をすれば、11話のラストの要領を得ないイレイナと師匠の会話にも合点がいく。師匠は「肝心なところで素直になれないのは未だ治っていないみたいですね。いずれ故郷に帰りなさい。あなたを愛している人がたくさんいることを忘れないで。」と聖母のような笑みで、イレイナに優しく語り掛ける。もし主人公の味わった途方もない悲しみを見透かして、それを癒すかのようなニュアンスを含んでいるのだとしたら…師匠はイレイナの身に起こったこと、そしてイレイナの「肝心なところで正直になれない」という性分まで見抜いたうえで、自分が無理やり聞き出そうとするのではなく、故郷に帰ることで、イレイナと似た大雑把な一面を持つ「母親」に対してなら、自分の全てをさらけ出して楽になれるのでは…というところまで気を配った遠回しなセリフに聞こえなくもない。もしこの考察が正しいのなら、師匠の洞察力、そしてイレイナを思いやるマリアナ海溝より深い愛を、何気ない2人の会話から読み取ることができる。

いずれにしろ、はっきりと描写されるまでは推測の域を出ないので、これはますます2期が待ち遠しい。

2期に繋がるようなエンディングになっているので、ほぼ100%2期が来ると思って間違いはない。

主人公が次にどんな景色を見て何を感じるのか。すでに虜だ。

興味がある人はぜひ観てみて欲しい。旅アニメの最高傑作を。




COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です