2020年

【2020アニメ】「イエスタデイをうたって」アニメレビュー





(90点)全12話

大学卒業後、定職には就かずにコンビニでアルバイトをしている”リクオ”。
特に目標もないまま、将来に対する焦燥感を抱えながら生きるリクオの前に、
ある日、カラスを連れたミステリアスな少女―“ハル”が現れる。
彼女の破天荒な振る舞いに戸惑う中、
リクオはかつて憧れていた同級生“榀子”が東京に戻ってきたことを知る。
榀子を昔から知る少年“浪”により、榀子の過去が明らかになり..。
緩やかに紡ぎ出される青春群像劇。TVアニメ「イエスタデイをうたって」公式サイト




未来に向かって進む若者を描いた青春群像劇

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (90点)
完走難易度 超易しい

原作は冬目景先生。

監督は藤原佳幸さん。

制作は動画工房。

自虐

©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会

主人公は就職活動に失敗し、コンビニでアルバイトをして生計を立てる社会人。

そんな主人公が周りとの関係の中で、自分を見つめ直し、新たな一歩を踏み出していく物語。

大学の同期はみんな自分のやりたいことを見つけ、そうでなくても定職に就いて仕事をしている人ばかり。

主人公は周囲の「何かに一生懸命打ち込む人たち」に引け目を感じ、自分をなるべく殺して、傷つかないような道を選択した結果、「コンビニでのバイト」という責任の軽い仕事を選択する。

主人公はそんな自分を卑下する。そして自虐のようにプー太郎だとか社会に貢献していないだとか、とことん自分を下げることで何とか体裁を保っている。

1話を観ただけでも分かる。これは名作だと。誰もが心のどこかに抱える「自分が本当にやりたいこととは何か」という悩み。

その壁にぶち当たった主人公は、自分がやりたいことを見つけられず、逃げるようにフリーターになる。

誰もが主人公の心に思いを寄せることができる。誰もがみんなやりたいことを仕事にして、人生を謳歌しているわけではない。

やりたくないことを仕事にしている人もたくさんいるし、そういう人達がいるから世界は毎日滞りなく動いている。

それを主人公は誰よりも重々分かっているから、好きだろうと嫌いだろうと仕事をしている人達を尊敬し、いつも見上げるような立場をとる。

個人的な話にはなるが、自分にもやりたいことが見つからずにニートだった時期があった。だから主人公の気持ちがよくわかる。

クラスの同窓会など行けるわけもないし、気心知れた友人同士の集まりでも気を遣われるし、自分もまた気を遣ってしまうので、昔のように腹を割って話すこともできない。

そうやってどんどん負の連鎖に巻き込まれて、一層自分を追い込み、どんどん「自分なんて」と自信を無くしていき、新しい何かを見つけようにもその活力さえなくなっていく。

1話で衝撃だったのは、卑屈な主人公に向かって放つバイト先の先輩の言葉。

「なんか人生逃げ腰だねえ。一生懸命な自分ってのはかっこ悪いと思ってん?卑屈になって逃げ道作ってるだけじゃねえの。どう転んでも自分が傷つかないようにさ。」

なんて心にグサッと突き刺さる言葉だろうか。卑屈になることで確かに自分の「心の安全」を守ることができる。

「自分はどうせ」と思うことで逃げ道を作ることができて、無理をして失敗することもないから、それとなく体裁を保つことはできる。

主人公はバイトという地位にいることを「楽」だと発言している。バイトという立場なら責任を負うこともない。誰に叱られることもない。周りもバイトだからと甘く見てくれる。

そうすることで「心の安全」は守られる。傷ついて悲しむことも過度なストレスを抱えることもない。

だがそれは気づけば「一生懸命やらないための言い訳」に、いつしかなっている。

自分の限界値を決めてコンフォートゾーンに留まること。それはつまり、それ以上成長できないことを意味している。心の安全を優先してしまうと自分の殻を突き破れない。

だから主人公はそんな自分と決別するために、ずっと前から好きだった同期の女の子に玉砕覚悟で告白をする。心の安寧を捨てて、未来を掴むために勇気ある行動をする。

その変化は何とも美しく尊いものだ。どうしても自分と重ねて主人公を見てしまう。「このままじゃダメだ」と一歩踏み出す主人公の背中を自然に押している。

そんな人生の路頭に迷う主人公だが、可愛い大学生の女の子と、高校の同期で教師をしている美女2人と知り合いなのは、非現実的で気に食わない。(笑)

というのは冗談で、2人のヒロインとの恋模様も2話以降どうなるのか。全く目が離せない。

恋愛というのも青春の1ぺージ。高校のときから好きだった女の子か、バイトによく遊びに来る活発で、主人公への好意を隠さないあけっぴろげな女の子か。

恋愛の行く末もますます楽しみだ。主人公のやりたいこと。主人公がどう変化・成長していくのか。ヒロインとの関係はどうなっていくのか。

等身大だからこそ心を許すことができる。1話からグイグイと引き込んでくる引力の強い作品だ。

停滞

©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会

このアニメのキャラクターはみんな何かしらの「停滞」を抱えている。停滞からの脱却が1つのテーマのようにも感じる。

主人公は就活に失敗してフリーター暮らし。何か自分の好きなものを見つけて一生懸命になりたいけど、楽な方へと逃げてしまっている。

晴は他人と距離を取る癖がついている。自分の素性を明かさず、なあなあの関係でいることで、いつ離れても後腐れがないようにしている。

品子は過去のトラウマを引きずっている。昔好きだった幼馴染が死んでしまい、6年たった現在でも彼への未練を引きずっている。

主人公が好きだという気持ちはあるにはあるが、幼馴染のことがチラついて一歩を踏み出せない。

自分がどうしたいのか。どうするべきなのか。自分の心と向き合い答えを出していく。それぞれが葛藤を抱え、他人との関わりの中で答えを見つけていく。

誰も停滞を望んでいない。前へ進みたい。けれど心がそれを許さない。自己嫌悪に苛まれても楽に生きたい。

葛藤の末に前向きになっていくことで、キャラ同士の関係も同時進行で進展していく。流れが非常に綺麗だ。

主人公は掛け持ちで新しく写真のバイトを始める。そして順調に事が運び、ついにスタジオに所属するカメラマン見習いになる。

しかし主人公は本当に自分は写真が撮りたいのか。自分に才能があるのか。悩んで停滞する。

それでも「面白い」と素直に思えるカメラで前向きに頑張ろうと心に決める。できるかどうかじゃなくて、やりたいかどうかが大切。これは真理だ。

そうしてついに念願の定職を見つけた主人公は、品子との関係にも変化が生まれる。それまで付かず離れずだった品子との関係が、お互いに歩み寄ることで進展を見せる。

恋愛を本筋に置きながらも、「将来」をテーマに周りとの関わりや自分との対話の中で答えを出して、将来に前向きになったタイミングで恋も前進する。

構成が非常に綺麗で自然と作品に入り込んでいる。それぞれが等身大の悩みを持っていて、不器用ながらも前に進もうとする姿が健気で愛おしい。

これほどみんなのことを好きになってしまう作品はない。完璧に見える人間でも欠点を持っているから親愛が生まれる。

未来

©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会

自分が将来どうなりたいか。各キャラが自分なりに考えて行動に移す。

晴を高校時代から好きだったという大学生は晴に告白をし、玉砕した後に後悔を残すことなく写真を撮る旅に出る。

彼は大学を中退している。自分のやりたいことがそこにないから。本当にやりたいことを見つけたから。

周りの人間に基準を置くタイプの人間ならその決断はできない。しかし彼は周りの目を気にせずに、自分なりの決断を出して夢を追う。

晴は親の反対を振りきって1人暮らしをしている。高校を中退してアルバイトでお金を稼ぎながら、未成年なのに立派に社会人をしている。

主人公ももちろんコンビニバイトで腐っていくことに危機感を覚え、身の振り方を真剣に考えるようになる。コンビニバイトをしながら、同時にカメラマンとしての職をこなす。

自分は何が好きなのか。何がやりたいのか。才能の有無などで葛藤しながらも、試行錯誤しながらも、手探りで自分なりの道を探していく。

本当にカメラが好きなのか。本当に絵が描きたいのか。本当にこのまま叶わない恋を引きずっていいのか。本当にピアノを仕事にしたいほど好きなのか。

それぞれが自問自答する。もちろんみんながみんな自問自答するシーンがあるわけではない。だが表情や無言の空間でなんとなく察することができる。

無のシーンでも感情が宿っているように感じる。キャラクターが何を思ってどう感じているのか。それをつい想像してしまうほど、もはやキャラクターの虜になっている。

将来どうなりたいのか、というありふれた悩み。

その悩みに笑ってしまうほど真剣に、涙してしまうほど真面目に、不器用ながらも前へ進もうとする姿には勇気をもらえる。

総評:「好き」とは?

©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会

「好き」とは何かを考えさせてくれる作品だった。

自分が好きなものを仕事にする。それは理想だが、自分に才能があるのか、本当にそれが自分のやりたいことなのか。グズグズと悩んで立ち止まってしまうもの。

それでも純粋な「好き」という気持ちを大切にする。「好き」は何にも勝るモチベーションになる。

また、恋愛においての「好き」とは一体なんなのか。

本当に自分の相手への感情は好きという感情なのか。友情の好きなのか恋愛の好きなのか。心から好きと思えるのか。

主人公とヒロインの品子は物語の途中で交際に発展する。つかず離れずのじれったい関係から一歩を踏み出し、ついに恋人という関係に至る。

しかし恋人になって気づく。それまで自分が相手に抱いていた「好き」という気持ちが、お互いに重荷になり、形だけの関係で全く進展しないことに。

キスをしようにもすれ違う。お互いに強引さはなく、相手のことを第一に考えて過干渉しない。それは優しさなのか、相手に「好き」という感情がないからなのか。

相手のことを第一に考えるから、お互い気を張って疲れるばかり。それに気づいた2人は別れることになる。

分かっている。2人は似た者同士で、いわばお互いに同じ極同士で引かれ合うことがないということも。

しかし悲しい。過程をしっかり経た上で別れるという決断を下しているので納得せざるを得ないが、どうしても腑に落ちないモヤモヤが残ったままだ。

主人公は大学時代からずっと品子に思いを寄せている。品子も不器用な主人公に少なからず好意を持っており、浪の兄への未練を断ち切ったことで、新しい恋に踏み出し、ついに2人は幸せになる…と信じてやまなかったから。

頭では分かっていても心が受け入れられない。収まるべき鞘に収まったと安心したし、初恋の相手と結ばれるなんてこれ以上の至福はない。

だが最終的に主人公は晴を選んでいる。気づいたら破天荒なお前のことが好きになっていたと。分かる。晴はとてもいい子だ。

一途に主人公のことを思い、自分がツライを思いをしようが、その思いを貫こうと決め、積極的なアプローチでアピールする彼女の笑顔は、健気で応援したくもなる。

しっかりと流れはあるが、この終わり方は納得できない人も多いはず。原作では一体どんな結末になっているのか。

恋愛の結末としては納得しきれない部分があるとはいえ、1つの青春群像激としてこの作品を客観的に見たとき、ほぼ非の打ち所がないと思っている。

自分の将来のことや恋愛で葛藤する大人たち。高校生では描けない。大人だからこそ描ける深い恋愛観や人生観。

同じ社会人としてものすごく共感できるセリフや心情が多く、時間を忘れて見入るほど面白い作品だった。

なんとなくみんなと同じが嫌で、就活をせずにコンビニバイトをする主人公。このままではいけないと頭ではわかっていても、居心地が良い今をなかなか捨てきれない。

しかし親友の言葉がきっかけで、自分のやりたいことが何なのかを見つける。だがそれが本当にやりたいことなのか。仕事にできるのか当然悩む。

スムーズにやりたいことを見つけて、それに向かって突き進むなんて絵空事だ。

一歩を踏み出すために足踏みをする。それが現実だ。そこをちゃんと直視して、この作品はリアルにかつ言葉巧みに描いている。

できるかどうかじゃなくてやりたいかどうか。そんな先輩の言葉で主人公は「好き」というまっすぐな気持ちでカメラに向き合う。

主人公の成長。最初は停滞をよしとしていた主人公が告白で盛大に赤っ恥をかいて、それでも自分の気持ちを貫き通して、ついには片思いを成就させる。

しかし恋愛をして初めて見える相手との相性。現実を知った主人公は青春時代を彩った初恋に別れを告げ、新しい恋と向き合う。

非常に美しい青春アニメだった。心に訴えかけるような懐かしい情景がノスタルジックな気持ちを誘い、セリフだけが飛び交う無音の世界も、このアニメの独特な雰囲気を作り出している。

古民家、黒電話、くたびれて錆び付いた建物、クタクタの服、温かみのある手書きの作画、タバコの煙。そして「イエスタデイをうたって」という昭和の歌謡曲のようなアニメタイトル。

全てが昭和にタイムスリップしたような哀愁を誘う。このアニメを観ている間、心は完全にアニメの世界に入り込んでいた。没入感が半端ではない。

「昨日を振り返ったり、ごちゃごちゃ考えたり、それでもくだらない俺たちの日常は続くのだ」

という主人公の言葉で締めくくられるように、過去を振り返って後悔の念に苛まれたり、過去の未練を引きずったり。誰もが過去に忘れ物をしている。

だがそれでも明日は来る。過去よりも未来。そう前向きにさせてくれるような素晴らしい作品だった。

雑感:恋愛は難しい

©冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会

恋愛は難しい。そのことをこのアニメは改めて教えてくれた。

相手への好きはどんな好きなのか。付き合ってどうなりたいのか。愛とはなんぞや。

付き合ってみて初めて気づく相手の気持ち。相性。

主人公と品子はお互いに気を遣いすぎる。やはり恋愛は似た者同士だと成功しないものなのだろうか。

でも似た者同士だからこそ分かり合えることもあるし、趣味や特技が似ていれば楽しいのでは…etc

などと取り留めのないことを考えてしまう。恋愛はやっぱり難しい。そして大人の恋愛は奥深くて味わい深くて面白い。

キャラクターのセリフはもちろん、一挙手一投足やセリフによる心理描写も秀逸で、音がない世界でセリフだけが唯一感情を知る手がかりになるというシーンが多々あり、声優の方々にとってはかなりの重荷だったと思うのだが、主役のみなさんの演技は思わず聞き惚れてしまった。

花澤さんはまたまたまたまたのご登場。確実に2回に1回の頻度で登場している気がするのだが、改めてその凄さを実感している。

セリフ1つで巧みに感情を表す演技は経験のなせる技。品子の奥手な部分とか純粋な女の子としての魅力を見事に表現していたし、「またざーさんか」と少し残念に思ったことを詫びたい気持ちだ。(笑)

主人公を演じた小林さんは「BEASTERS」という作品以来だが、不器用な主人公がやはりよく似合う。

特徴的で一般的な主人公のイメージとは若干かけ離れているかもしれないが、少し根暗で、でも不器用ながらも一生懸命な内面を出せるのは、小林さんの声だけかもしれない。

そして晴を演じた宮本さん。彼女の声も他のアニメで聞いていたが、あまり元気なタイプのイメージがなかったにも関わらず、間違いなくハマり役だった。

少し空回りしているくらいに元気ハツラツな晴は、宮本さんの声以外ではありえない。

このアニメに関わった全ての人に感謝したい。エンディングに多少の不満はあるとはいえ、とても美しく綺麗な作品だった。

みんな幸せが一番。主人公と品子は喧嘩別れしたわけでも自然消滅したわけでも、気まずい感じで別れたわけではない。

お互いに価値観の差異を自覚し、大学時代に戻ったような「友達」同士の笑顔のやり取りで別れを決意している。

晴は1話から抱いていた主人公への淡い片思いが成就している。みんなが笑顔。みんな幸せ。納得するしかない。

あれだけすったもんだを繰り返して、結ばれることはないと思われていた浪と品子もおそらく付き合うのだろう…まあ幸せならOKだ。(笑)

興味がある人はぜひ観て欲しい。超オススメだ。




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