2020年

【2020アニメ】「波よ聞いてくれ」アニメレビュー





(75点)全12話

「いやあ~~~~ッ、25過ぎてから男と別れるってキツいですね!」札幌在住、スープカレー屋で働く鼓田ミナレは、酒場で知り合った地元FM局のディレクター・麻藤兼嗣に失恋トークを炸裂させていた。翌日、いつものように仕事をしていると、店内でかけていたラジオから元カレを罵倒するミナレの声が……!麻藤はミナレの愚痴を密録し、生放送で流していたのだ。激昂してラジオ局へ乗り込むミナレ。しかし、麻藤は悪びれもせずに告げる。「お姐さん、止めるからにはアンタが間を持たせるんだぜ?」ミナレは全力の弁解トークをアドリブで披露する羽目に。この放送は反響を呼び、やがて麻藤からラジオパーソナリティにスカウトされる。「お前、冠番組を持ってみる気ないか?」
タイトルは『波よ聞いてくれ』。北海道の深夜3時半、そしてミナレは覚醒するッ!TVアニメ「波よ聞いてくれ」公式サイト




失恋をきっかけにした人生の転機を描いた青春コメディ

ストーリー
作画
面白い
総合評価 (75点)
完走難易度 普通

原作は沙村広明先生。

監督は南川達馬。

制作はサンライズ。

失恋

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

失恋を切っ掛けに、なぜかラジオ局でパーソナリティとして働くことになる女性の物語。

1話から癖にまみれている。北海道の山奥で主人公が熊と対峙しながら、パーソナリティーとして、リスナーのお便りを読んで返事をするシーンから始まる。

なぜに山奥でラジオをしているのか。わけが分からない状況から始まる。(笑)

しかし、それはあくまで「もしも」のシチュエーションであることが後に明らかになるのだが、冒頭から熊と戦いつつ、お便りを読みながら粋なレスポンスをする女性の図はわけが分からな過ぎて面白い。(笑)

次に、その主人公が局で働くことになるいきさつがBパートで描かれる。知らないおじさんに失恋話をゲロってしまい、それが公共の電波に乗っていることに気付いた主人公が、局に乗り込み、その流れでなんと、素人が1分も電波を預かることになる。(笑)

突拍子がなさすぎる。局に押し掛けた素人が次の瞬間には、1分間思いの丈を公共の電波でぶちまけている。

ラジオ界隈では有名らしい「3秒ルール」の緊張感がありつつも、滞りなくしゃべり倒し、最後には「殺す!」という強烈な言葉を電波に乗せる素人パーソナリティー。

何が何だか。あまりに目まぐるしい展開に付いていくのがやっと。1話のほとんどの尺が主人公の自分語りで占められているという異質な光景。

失恋を切っ掛けにラジオパーソナリティーになる素人の女性。2話以降、このストーリーがどこに向かって進んでいくのか。全く予想ができない。(笑)

ラジオ

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

ラジオ番組がいかにして成立しているのか、パーソナリティーに求められている技能がどのようなものなのか。

ラジオについての見識が深まる作品でもある。プロデューサーが主人公に手取り足取り教えるシーンが幾度もあり、アニメとは思えないほどの「いろは」が詰まっているので普通に勉強になる。

制作費やギャラ、機材、放送枠やスポンサーとの兼ね合い、パーソナリティーの声質や気の回し方など、原作者がラジオ関係で仕事をしていた経験がないと説明が付かないほど深く突っ込んでいる。

だが素人がいきなり抜擢されることなどあるだろうか。(笑)

序盤で問題になる通り、枠を確保するのも大変だし、制作費を捻出するためにスポンサーを募るのも大変だ。

お金がないと何もできない。主人公の生活の問題とも併せて、大人の事情、社会の厳しさをリアルに描いている。

ただ主人公のおしゃべりの腕は神がかっている。もはや素人と片付けることができないほど達者だ。

話の振り方オチの付け方、話の広げ方閉じ方、とめどなくあふれ出てくる語彙力と「架空実況」での演技力、生放送というミスが許されない状況でも噛まない滑舌の良さ。

何から何まで素人離れしている、というか人間離れしている。「よくもまああれだけの逸材を世界が放っておいたな」レベルで凄まじい。

忘れてしまいそうになるが、そのキャラクターに命を吹き込んでいる声優さんだ。主人公の声を担当したのは杉山里穂さん。失礼にはなるが、声優界隈ではあまり名を聞かないお方だ。

それもそのはずで彼女は新人声優。その新人さんがこれだけのセリフのボリュームを、ラジオという1人の空間を上手くコントロールして、「独壇場」にしてしまうのは、実は物凄いことなのではないだろうか。

新人らしからぬ「失恋して荒んだ女性」という役どころを上手く演じているし、よくもまあ数多くの声優さんの中から、ここまでぴったりな声優さんを選んだなと、そこにもビックリだ。

現実

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

主人公の喋りは本当に達者で、アドリブとは思えない程すらすらと言葉が出てきて、それでいてしっかり流れがあり、オチまでしっかり付いている。

ラジオは本来台本がある。だが彼女にはほぼない。アドリブが彼女を美味しく調理するための最善手であり、彼女は制作陣の期待に見事にこたえて、次々と反響を大きくしていく。

だが、それほどの腕を持つ彼女でも生活は安泰ではない。そもそも彼女が勧誘された局はローカルで、道民しか聞いていない。

だから彼女が世界に見つかることは多分なく、決して「ローカルからいずれはオールナイトへ」という身の丈に合わない野望を持って、精進していくストーリーにはならない。

いや、そっちの方がアニメ的には面白そうではあるのだが、このアニメはあくまで現実と向き合いながら生きていくことを、テーマの一つに置いている感がある。

とにかくお金がない。何をするにもお金が必要。主人公は家賃の更新料や車検などが重なり、お金が足らずにアパートを出て、局の同僚の家に居候をしながら、スープカレー屋で変わらずアルバイトをし、週に1回のパーソナリティーで、雀の涙ほどのお金をもらう貧乏暮らしだ。

言ってしまえば夢も欠片もない。これだけの能力を持ちながら金欠でアルバイト生活を強いられるなんて…と、ともすればちょっとしたやるせなさも感じる。

だがそこが良い。本来夢や目標を追いかける作業は地味だ。いきなりどーんと飛躍してお金持ちになれるなんて、そう甘い話ではない。

主人公が元カレの家に行くシーンで、お金をあるだけ使い散財する元カレに対して、「一攫千金みたいなことばっかすんな。身の丈にあった幸せもある。」と言っている。お金はある分しか使えない。今あるお金でやり繰りする。当然だが当然ではない世の中でもある。

アルバイトだろうと何だろうと、地道にコツコツと頑張ってきた者が、夢や安定した生活を手に入れることができる。さすがに拡大解釈が過ぎるかもしれないが、そんなことを伝えようとしているのかもしれない。

主人公の父親は福岡から北海道へ行った主人公へこう言葉をかけている。

「他人に笑われる人間になれ」

普通の親なら耳にタコができるくらい聞いた常套句でも言うところを、笑われる人間になれ、と真面目に言う父親。

反対に母親は「クズの言うことなど真に受けるな。他人に尊敬される人になりなさい。」とこちらは常套句で主人公に発破をかけ、主人公は板挟みになっている。(笑)

当たり障りのない人生ではつまらない。ある日、ひょんなことからラジオで自分が一人語りをすることになるかもしれない。予想が付かないから面白い。

痴情のもつれ

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

主人公はそもそも失恋が原因となって荒んだことが遠因となって、プロデューサーと出会い、ラジオ番組を持つに至っている。

50万円を貸したのに返ってこない。恨みつらみの彼氏ネタを盛大に披露したことが、周り回って、彼氏との再会に繋がっている。

その彼氏は堂々と浮気をしており、主人公以外の彼女ともひと悶着あり、性格的に問題を抱えている。

主人公もそのことを当然知っており、「殺してやる」とまで言い放ったが、実際に会って話をしてみるとお金はちゃんと返してくれるしで、案外良い雰囲気になる。

だが結局は、とある雑誌が切っ掛けで化けの皮が剥がれ、とんでもないクズ野郎であることがはっきりして、主人公が制裁を加えてオチが付く。

「残り25万は手切れ金としてくれてやる。その金作るために別の女泣かすんじゃ、やってらんねえわ!」

主人公はこう言い放つ。なんと男気に溢れた言葉だろうか。(笑)

男気の中にも乙女ちっくな一面も持ち合わせおり、そのギャップが可愛らしいキャラクターだ。

総評:味

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

このアニメは、何か1つの目標に向かって頑張るアニメではない。むしろ、今ある生活にどう幸せを見出していくのか。そこを強く訴えたアニメだと私は思っている。

実にアニメらしくない。キャラデザも全然可愛くないし、いわゆるアニメ的な派手さの欠片もない。どこにどんなニーズがあるのか。イマイチピンと来ないくらいだ。

だがそれでもこの作品にしかない「味」がある。地味だけと目を逸らせない魅力がある。

おそらくその1つに、前述した「現実」と向き合う描写が多いことにあるだろう。このアニメは現実をアニメにしている。

主人公はラジオという声の仕事で一発当てかける。語りの才能に恵まれ、1人でも全く苦にせず、つらつらと言葉を並べることができる。

だがそこからサクセスストーリーは始まらない。劇的に何かが変わったりとか、もっと喋りを上手くなろうとか、アニメ的な展開にはならない。

主人公は現実を見ている。現実を見させられている。ラジオは当然お金がないと番組を制作できないし、局が自腹を切るにしても、主人公みたいな余程の金の卵でないとあり得ない。

自主制作になると当然ギャラも安くなる。ラジオ一本で食っていくには到底足りない。だから主人公は、スープカレーのお店でアルバイトをやらなければならない。

最初の主人公はそう思っていた。生きるために仕方なく仕事をしている感じだ。

だがそれも「自分で何かを生み出す」という面白さに目覚めた最終回をきっかけに、アルバイトさえも話のネタにしてしまおうと、前向きに人生を楽しめるように「成長」している。

劇的に変わったほうが面白いし、才能が世間に認められて、とんとん拍子で出世した方がアニメ的には面白い。

だが主人公が元カレに言った通り「身の丈に合った幸せ」さえあれば、それを噛みしめる心の余裕があれば、夢や目標が無くてもそれなりに楽しくやっていけるものだ。

そこが実にリアルで、この作品にしかない「味」だ。夢を追いかけるのではなく、身の丈に合った生活をして、その中で精一杯幸せを見つけていく。この作品は多分そういう作品だ。

またラジオの「今」も知ることができた。ラジオは廃れない。そんな根拠のない確信が持ててしまうほど、ラジオは常に誰かの傍にある温かい場所なのだと、この作品を通してラジオの素晴らしさを多く知ることができた。

知識欲を満たしてくれた意味でもこの作品は価値がある。日常を過ごしていて、ラジオの仕組みについて知ろうと思う機会などまずない。

今できることを頑張っていれば、いつか必ずどこかで報われる。

主人公が確かそんなセリフを言っていたような気がするが、ラジオという新たな居場所を主人公が見つけたように、何か小さなものでも居場所を作れるように自分も頑張ろうと、素直に思える作品だった。

雑感:過負荷

©沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

主人公を演じた杉山さんの喉は無事だったのだろうか。とにかく一人で毎話のように喋り倒しており、その上感情の揺れが激しいキャラクターだったので、相当な苦労があったはずだ。

もし「1クールで一番セリフ量多かったキャラは誰か」ランキングをしたら、主人公は確実に上位に入るはずだ。自分の脳内では勝手に斉木楠雄とデッドヒートが行われている。(笑)

杉山さんにとってはこれを経験してしまえば、他にどんなキャラクターが来ても、ほぼ無敵ではないだろうか。(笑)

それはいいとして、古き良きアニメ枠は今後も失われないでいて欲しい。

トレンドや若者受けにいい要素ばかりのアニメも良いが、やはりときたまに、こういった昭和の香りが残るアニメも摂取していかないといけない。

もちろん昭和の時代など微塵も知らない。それでも時代の変遷を感じることができるアニメは貴重だ。

私にしてみれば「アニメでしか」情報を取り入れることができない。アニメだからこそ取り入れることができる。

そういったアニメが廃れないことを祈る。興味がある人は是非とも観て欲しい。




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